研究課題/領域番号 |
26670419
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研究機関 | 宮崎大学 |
研究代表者 |
中里 雅光 宮崎大学, 医学部, 教授 (10180267)
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研究分担者 |
坪内 拡伸 宮崎大学, 医学部, 助教 (60573988)
松元 信弘 宮崎大学, 医学部, 助教 (70418838)
三浦 綾子 宮崎大学, 医学部, 研究員 (70710903)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 上皮統合性 / 肺損傷 / 急性呼吸窮迫症候群 / タイトジャンクション / リモデリング / グレリン / Pten / 基底膜 |
研究実績の概要 |
急性呼吸促迫症候群(ARDS)は敗血症など種々の病態を誘因として発症し、急速に重篤な呼吸不全に陥る疾患である。既存の薬物療法に有効性はなく、死亡率40%以上と高い致死率を呈する。本研究では、肺上皮(AEC)特異的Pten欠損マウスを用いた上皮統合性再構築制御とARDS発症・進展の関連の検証を行った。免疫組織化学染色とwestern blotting法による解析の結果、AEC特異的Pten欠損マウスでは野生型マウスと比較し、ブレオマイシン(BLM)気管内投与7日後の肺組織においてタイトジャンクション(TJ)構成分子(claudin-4、E-cadherin)、基底膜構成分子(lamininβ-1)の発現低下、上皮統合性破綻関連分子(pAkt, pSmad2、pErk、pS6K、Snail)の発現亢進を認めた。免疫組織化学染色とSircol Soluble Collagen Assay法による解析では、BLM気管内投与7日後と14日後において、AEC特異的Pten欠損マウスでは野生型マウスと比較し、肺組織中collagen沈着が亢進していた。磁気細胞分離装置を用いて、CD31-/CD45-細胞をソーティングし、Pten欠損マウスではAECにおける上皮統合性破綻関連分子(pAkt, pSmad2, pErk, pS6K, Snail)の発現が亢進していた。以上から、上皮Ptenの欠損はTJ破綻と基底膜破綻からなる上皮統合性の破綻、肺損傷後細胞外マトリックスリモデリング亢進を引き起こすことが示唆された。細胞外マトリックスリモデリングはH1α-regulated lysyl oxidase (LOX)を介したさらなる上皮統合性破綻を引き起こす。ARDS症例を対象に、血清ならびに気管支肺胞洗浄液中LOX濃度と予後の関連を検証するため、症例を蓄積中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本年度では、①AEC特異的Pten欠損マウスを用いたARDSモデルでのタイトジャンクション構成蛋白発現動態の解析、②AEC特異的Pten欠損マウスでの肺損傷後細胞外マトリックスリモデリングの解析ならびに③AEC特異的Pten欠損マウスでの肺損傷後上皮統合性制御分子動態の解析の研究課題項目について、AEC特異的Pten欠損マウスと野生型マウスのBLM肺傷害モデルを用いて解析を行った。その結果、上皮Ptenの欠損がタイトジャンクション破綻と基底膜破綻からなる上皮統合性の破綻、肺損傷後細胞外マトリックスリモデリング亢進を生じることが示唆された。以上の研究成果から、本研究課題の解明について当初の計画を超えて進展しているもの考える。
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今後の研究の推進方策 |
本研究の結果、ARDSにおける上皮統合性維持機構に上皮Ptenが重要な役割を果たしていることが示唆された。今後は上皮PtenのARDS病態への病態生理学的意義を解明するため、①タイトジャンクション破綻の形態学的評価ならびに機能的評価、②Akt経路活性の亢進の制御がARDSモデルに与えるレスキュー効果、③AEC特異的Pten欠損マウスでの肺損傷後AEC前駆細胞数と分化能と増殖能の解析の3つの研究を計画する。①では電子顕微鏡を用いた詳細なタイトジャンクションの形態評価および経上皮電気抵抗値とキャパシタンスの変化の計測を、②ではBLM気管内投与モデルにおけるAkt阻害剤の投与実験を、③ではBLM気管内投与後の肺由来integrinα6β4陽性細胞の分離培養ならびに増殖能と2型肺上皮細胞への分化能の検証を行う。申請者はグレリンがBLM肺傷害動物モデルにおいて、気道上皮保護作用を有することを立証した(Eur J Pharmacol 2011)。本研究ではPtenのAEC保護作用がグレリンシグナルと関連しているかを検証する。グレリン受容体にGFPを発現するトランスジェニックマウスを用いて、AECにおけるグレリン受容体の発現の確認を行う。AEC培養株(BEAS-2B)を用いて、TGF-β刺激による上皮統合性の障害のグレリンが抑制するか、グレリン未添加培地群およびグレリン添加培地群でAECの経上皮電気抵抗値とキャパシタンスの変化を計測することで検討する。野生型Ptenおよびdominant negative型Pten遺伝子導入BEAS-2B細胞層をスクラッチ処理し、グレリン未添加培地群およびグレリン添加培地群で細胞層欠損面積の経時的変化を解析する。本研究の遂行により、上皮統合性のメカニズムに新たな科学的知見を加えることができ、ARDSの病態への新規治療法開発へつながることが考えられる。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初購入を予定していた機器を他予算で購入したため。未使用額は細胞培養試薬の購入費用に充てる
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次年度使用額の使用計画 |
申請者はグレリンがBLM肺傷害動物モデルにおいて、気道上皮保護作用を有することを立証した(Eur J Pharmacol 2011)。Ptenの上皮統合性制御がグレリンシグナルを介するか検討するために次の実験を計画する。 dominant negative型Pten遺伝子を導入したBEAS-2B細胞を、グレリン添加培地またはグレリン未添加培地で培養する。各培地の細胞をスクラッチ処理し、細胞層欠損面積の経時的変化の解析を行う。TGF-β処理による経上皮電気抵抗およびキャパシタンスの変化を測定し、PtenによるAECシートバリア強固性をグレリンが増強するか検証する。
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