本年度は研究計画に従って「直接リプログラミングによる肺上皮細胞の分化誘導」に関する研究を中心として行われた。 前年度までは、予備実験にて選出した肺の発生に関連する4つの転写因子の遺伝子を、生後3-5日後の仔マウスの尾から得られた線維芽細胞にレトロウイルスシステムを用いて導入して強制発現させることで分化誘導を行う実験を行い、培養条件を検討した。 本年度は、SP-Cプロモーター依存性GFP発現トランスジェニックマウスより胚性線維芽細胞を得て、上記の4因子の遺伝子を導入し、液性因子を混合した培地を用いて3次元培養を行うことで、分化誘導を試みた。様々な条件で培養を行い、得られた培養細胞のSP-C発現を免疫染色で評価したところ、SP-C陽性の誘導細胞を認めた。得られた培養細胞をFACSで検討したところ、全細胞の約2-5%がGFP陽性(SP-C発現)であった。培養細胞からGFP陽性細胞をFACSにて単離し、電子顕微鏡での評価を行ったところ、II型肺胞上皮細胞に特徴的であるlamellar body様の構造物を認めた。これらの結果は、直接リプログラミング法により、肺上皮細胞の分化誘導が実現する可能性を示唆するものと考えられる。 これらの結果は、2017年4月に東京で開催された、第57回日本呼吸器学会学術講演会においてミニシンポジウムに採択され、報告を行った。 今後は、SP-C陽性細胞の割合を増やすための培養条件の最適化、得られたSP-C陽性細胞のフェノタイプの検討、得られたSP-C陽性細胞を胚損傷モデルマウスなどに導入することによって得られる効果の検討、などを行っていく予定である。
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