研究課題/領域番号 |
26670429
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研究機関 | 新潟大学 |
研究代表者 |
成田 一衛 新潟大学, 医歯学系, 教授 (20272817)
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研究分担者 |
後藤 眞 新潟大学, 医歯学系, 講師 (00463969)
金子 佳賢 新潟大学, 医歯学系, 助教 (80444157)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | ネフローゼ症候群 / T細胞 / 初期化遺伝子 / 糸球体上皮細胞 / FSGS / MCNS |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、腎臓病患者由来の末梢血T細胞に、初期化遺伝子を導入してiPS細胞を樹立し、さらに腎糸球体上皮細胞へと分化させ、これを利用してin vitroで腎糸球体上皮細胞の機能解析を行うことである。特発性ネフローゼ症候群の原因となる糸球体疾患の多くは、腎糸球体上皮細胞の一次的な異常により発症するが、疾患別、症例別の糸球体上皮細胞の機能異常の詳細は、その採取と直接の観察が不可能で、不明な点が多い。そこで本研究は液性因子(サイトカイン、増殖因子、内因性ホルモン等)、や患者血漿成分に対する反応性を比較するなど、糸球体上皮細胞の異常を詳細に解析する方法を確立する。臨床経過が多様なネフローゼ症候群に対し、患者個別の糸球体上皮細胞をin vitroで機能解析する点が斬新である。液性因子や患者血漿成分に対する反応性を比較することにより、上皮細胞の機能的あるいは形態的な異常を起こす因子の同定や、副腎皮質ステロイド剤などの治療に対する反応性の違いの解明へと発展する可能性を有している。腎臓病を引き起こす上皮細胞の機能評価および治療手段を創成するための新たな手段に繋がる。本年度までに、健常人および特発性ネフローゼ症候群を呈するMCNSやFSGS症例から末梢血Tリンパ球を採取し、初期化遺伝子を導入してiPS細胞を誘導し、腎糸球体上皮細胞へと分化させることに成功した。ヒト末梢血T細胞からiPS細胞の樹立ならびに腎糸球体上皮細胞への分化させた細胞群において、糸球体上皮細胞の特異マーカーの発現を免疫染色法にて確認した。今後これを用いたin vitroでの糸球体上皮細胞の機能解析を行う
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
患者(特発性ネフローゼ症候群(微小変化型ネフローゼ症候群、膜性腎症、巣状分節性糸球体硬化症など、糸球体上皮細胞障害が病因に関与すると考えられる孤発性疾患と、遺伝性ネフローゼ症候群)で、試験参加に対して文書による同意を得られた患者)および健常人のヒト末梢血T細胞からiPS細胞を樹立し、糸球体上皮細胞に分化させることに成功した。患者由来のiPS細胞から他の細胞へ分化させて病態解明を行う方法は、主に原因遺伝子が明らかな遺伝性疾患に適用されてきた。しかし近年、孤発性のアルツハイマー病患者から作成したiPS細胞由来の神経細胞においても、遺伝性の同症患者からのiPS由来神経細胞と同様の異常が認められている (Kondo T, et al. Cell Stem Cell 2013)。したがって、特発性ネフローゼ症候群の大半を占める孤発例患者においてこそ、本研究を行う意義が深いと考える。
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今後の研究の推進方策 |
腎糸球体上皮細胞は、成長ホルモンや血管内皮細胞由来成長因子などに反応して機能的、あるいは形態的な変化を来たし、糖尿病性腎症などの糸球体障害の進展に関与する(Kumar PA, et al. Curr Diabetes Rev 2011; Tufro A, et al. Semin Nephrol 2012)。申請者らは、ヒト腎糸球体で糸球体上皮細胞特異的にプロラクチン受容体が発現していることを明らかにした。このプロラクチンは、成長ホルモンに類似した構造を持ち、乳腺の分化・発達に関与するなど、増殖刺激を与えている。iPS細胞より誘導した培養腎糸球体上皮細胞にもプロラクチン受容体が発現しており、なんらかの増殖、もしくは炎症シグナルに関与しているものと推察される。疾患との関わりにおいては未解明であるものの、糸球体上皮細胞の形態的、機能的異常に何らかの関与をしている可能性があり、ネフローゼ症候群の病態解明に発展することが期待される。 樹立したiPS細胞由来腎糸球体上皮細胞に対し、成長ホルモンや血管内皮細胞由来成長因子などの増殖因子や、TGF-betaなどの各種サイトカイン、レニン、アンジオテンシンなどの内因性ホルモン等に対する反応性、あるいは患者血漿成分に対する反応性を、上記スリット膜構成蛋白、tight junction, gap junction構成蛋白の発現の違いに着目し、免疫染色、RT-PCR法、ウエスタンブロット法などで比較する。
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