研究課題
アルツハイマー病、パーキンソン病、ポリグルタミン病など神経変性疾患の病態解明・治療法開発へ向けて、これまで様々な疾病モデルマウスが用いられてきたが、ヒトとげっ歯類では脳の構造・機能や代謝経路が大きく異なるため、脳部位・回路特異性の解明や、薬効・薬物動態評価、バイオマーカー開発は極めて困難であった。本研究では、モデル動物としての適性が高い小型霊長類マーモセットを用いて、世界初の神経変性疾患トランスジェニック霊長類モデルの開発を目指すことを目的として、以下の研究を行った。申請者らは、遺伝子改変技術による病態再現性に優れ、かつ原因遺伝子変異のCAGリピート数の伸長程度により早期発症が期待できるポリグルタミン病に着目した。ポリグルタミン病のうち、世界的に頻度の高い脊髄小脳失調症3型(SCA3)の原因遺伝子ataxin-3内に120回の異常伸長CAGリピート配列を持つ変異ataxin-3遺伝子(正常12-41回)を、CMVプロモーター下に組み込んだレンチウイルスベクターを作成した。変異ataxin-3レンチウイルスベクターをマーモセット初期胚に感染させ、胚移植・妊娠を経て、複数の産仔を得た。産仔の胎盤や線維芽細胞からゲノムDNAを抽出し、PCR解析により確かに変異ataxin-3遺伝子が導入されていることを確認した。今後、経時的な行動解析、生化学・病理学的解析により、ポリグルタミン病モデルとしての適性を評価する。さらに非侵襲的脳機能画像解析(MRI、PET)や、血液、尿、脳脊髄液などを用いたマルチオミックス解析により、病態を反映しかつ発症前から検出可能な鋭敏な疾患バイオマーカーを開発する。
1: 当初の計画以上に進展している
トランスジェニックマーモセットの作出技術は、世界に先駆けて我が国で開発された技術であるが、これまでヒト疾患病態を反映する疾患モデルマーモセットの樹立には成功していない。本研究ではトランスジェニック技術による病態再現性に優れたポリグルタミン病に着目することで、世界初のヒト疾患モデルトランスジェニックマーモセットの樹立に成功した。以上のことから、当初の計画以上に進展していると評価した。
今後、この世界初のポリグルタミン病モデルマーモセットについて、経時的な行動解析、生化学・病理学的解析により、神経症状や異常伸長ポリグルタミン蛋白質凝集体、神経変性などの病態を明らかにし、ポリグルタミン病モデルとしての適性を評価する。さらに神経症状発症前から症状発現、最終病理像完成までに至る過程で非侵襲的脳機能画像解析(MRI、PET)や、血液、尿、脳脊髄液などを用いたマルチオミックス解析により、病態を反映しかつ発症前から検出可能な鋭敏な疾患バイオマーカーを開発する。本研究は、今後の疾患モデル霊長類開発のさきがけとなる研究であり、より正確な発症前診断や治療薬候補の薬効・安全性評価など、ヒト疾患の病態解明・治療法開発への貢献が期待される。
本研究で作出したポリグルタミン病トランスジェニックマーモセットの発症が、事前の予測よりも遅かったため、当該年度中に詳細な生化学・病理学的解析を行うことができなかった。
次年度に、ポリグルタミン病モデルマーモセットの詳細な生化学・病理学的解析を行い、神経症状や異常伸長ポリグルタミン蛋白質凝集体、神経変性などの病態を明らかにし、ポリグルタミン病モデルとしての適性を評価する。さらに神経症状発症前から症状発現、最終病理像完成までに至る過程で非侵襲的脳機能画像解析(MRI、PET)や、血液、尿、脳脊髄液などを用いたマルチオミックス解析により、病態を反映しかつ発症前から検出可能な鋭敏な疾患バイオマーカーを開発する。
すべて 2015 2014 その他
すべて 雑誌論文 (8件) (うち査読あり 6件、 謝辞記載あり 2件) 学会発表 (26件) (うち招待講演 7件) 備考 (1件) 産業財産権 (3件)
Proc. Natl. Acad. Sci. USA
巻: 112 ページ: E2497-2506
10.1073/pnas.1412651112
Mol Ther Nucleic Acids
巻: in press ページ: -
J Biol Chem
巻: 290 ページ: 1442-1453
10.1074/jbc.M114.590281
Clinical Neuroscience
巻: 33 ページ: 312-314
Neurobiol Dis
巻: 71 ページ: 1-13
10.1016/j.nbd.2014.07.014
Hum Mol Genet
巻: 23 ページ: 3467-3480
10.1093/hmg/ddu055
Curr Med Chem
巻: 21 ページ: 2575-2582
10.2174/0929867321666140217124038
BRAIN MEDICAL
巻: 26 ページ: 225-229
http://www.ncnp.go.jp/nin/guide/r4/index.html