研究実績の概要 |
褐色脂肪細胞は、白色脂肪細胞とは異なり、脂肪酸を酸化分解したエネルギーを熱として散逸する細胞であり、マウス等では肥満や耐糖能異常に抑制的に働く。ヒト成人に褐色脂肪細胞が存在することは、2009年に初めて証明され、まだ未解明の部分が多い。興味深いことに、高度の肥満、脂質異常症、糖尿病の患者ではほとんど活性が認められない。そこで、糖尿病の患者から褐色脂肪細胞を作出して自家移植できれば、全く新しい細胞治療を提供できる可能性が考えられる。我々は最近、線維芽細胞から褐色脂肪細胞を直接誘導することに成功した。しかし現状では遺伝子導入で誘導しているので、実用化にさらに近づけるためには、安全性が高い誘導法の確立が望まれる。そこで本研究では、遺伝子導入に換えて小分子化合物で、ヒト線維芽細胞から褐色脂肪細胞へのダイレクト・リプログラミングを達成する技術を確立することを目的とした。 上記の研究成果に基づき、高感度で高スループットのスクリーニング系を構築し、8,800分子種の化合物ライブラリーをスクリーニングした。その結果、1因子を代替する化合物の候補を複数見出した。これらの化合物の作用をさらに検討することにより、小分子化合物によるヒト線維芽細胞から褐色脂肪細胞へのダイレクト・リプログラミングが可能になると期待できる。このような化合物は、さらに褐色脂肪細胞のダイレクト・リプログラミングのメカニズムの解明にもつながり、さらにケミカル・ダイレクト・リプログラミングとして実用化する可能性があると考えられる。
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