O結合型β-N-アセチルグルコサミン(O-GlcNAc)転移酵素(OGT)は、タンパク質のセリン・スレオニン残基にO-GlcNAc基を付加する酵素であり、ヒストンなどのエピゲノム修飾に重要である。このようなタンパク質の糖鎖修飾は、リン酸化と並ぶタンパク質修飾として、細胞応答を制御するシグナル伝達系で極めて重要な役割を果たしている。実際、セリン・スレオニン残基のO-GlcNAc化は同じ部位のリン酸化と拮抗することが知られており、タンパク質のリン酸化シグナルと密接に関連している。本研究では、1)造血幹細胞(HSC)機能制御・血球分化におけるOGTの役割、2)造血器腫瘍発症へのOGTの関与、3)TET2の下流因子としてのOGTの役割、を解明するため、造血系特異的ノックアウトマウスを作成し、HSC機能や血球分化、腫瘍発生などを詳細に解析することを計画した。
平成27年度は昨年度に引き続き、Vav-Creトランスジェニックマウスと掛け合わせたOGTコンディショナルノックアウトマウスを解析し、胎生期造血におけるOGTの役割を解明した。コロニーアッセイでは、OGT欠失胎児肝細胞は野生型に比べてコロニー形成能が著しく低下しており、またコロニーあたりの細胞数も激減していた。このことから、胎児肝におけるコロニー形成造血前駆細胞数は著減しており、また増殖能も顕著に障害されていることが明らかとなった。続いて、胎児肝より精製・分離したHSCを致死量放射線照射したレシピエントマウスに移植したところ、OGT欠失HSCは骨髄再建能を完全に失っていることが明らかとなった。 以上より、OGTは胎生期造血、特に胎児肝HSC機能において必須の役割を担っていることが明らかとなった。
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