研究実績の概要 |
本研究では、1個の造血幹細胞が分裂して生じる2個の娘細胞ペア(paired daughter cell: PDC)について、PDC間で対称性に発現する分子(対称性発現分子)を同定し、造血幹細胞分裂制御における機能を明らかにすることを目的に研究を進めている。これまでに、造血ニッチ分子Angpt1が造血幹細胞の分裂パターンに影響を与え、前駆細胞 (progenitor: P) を2個生み出す(P-P)対称分裂を減らし、幹細胞 (stem cell: S) を2個生み出す(S-S)対称分裂、幹細胞と前駆細胞を1個ずつ生み出す(S-P)非対称分裂の頻度を増加させることを見出している。そこで、Angpt1により誘導される対称性発現分子の同定を進め、4週齢のPDCサンプルでCtnnd1, Bmi1, Numb, Npm2, Gata1, Pbx1, Notch1, Cdkn1a, Fbxw7, Cdkn1b, Foxo4, Cdkn2a, Hes1, Bcl2, Itga2b, Slamf1が対称性に発現することを明らかにした。特に、Bmi1は造血幹細胞の自己複製を誘導することが知られており、S-S対称分裂の誘導に関係すると考えられる。そこで、Bmi1に注目し、細胞膜透過性ペプチド(MTM)を付与したMTM-Bmi1タンパクを作製している。これと併行して、Bmi1ノックインマウス(Bmi1-KIマウス、千葉大学 岩間教授より供与)を用い、Vav-Creマウスと交配することにより、造血幹細胞でBmi1を強制発現させて細胞分裂アッセイを開始している。 また、分裂前の造血幹細胞についてシングルセル遺伝子発現解析を行い、造血幹細胞に極めて特異的に発現する分子として、Serum deprivation-response protein (SDPR)を同定した。
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今後の研究の推進方策 |
1. 細胞膜透過性タンパク (MTMタンパク) を用いた対称性発現分子の幹細胞増幅への応用 これまでに同定している4週齢造血幹細胞の対称性発現分子について、研究が先行しているBmi1に加えて、他の分子もMTMタンパクを作製する。ただし、16種類の遺伝子の中には、Itga2bやGata1のように、幹細胞ではなく前駆細胞レベルで発現するものもある(4週齢造血幹細胞のP-P対称分裂が示唆される)ため、これらの分子ついてはMTMタンパクの作製は行わない。 2. Bmi1-KIマウスの解析 造血幹細胞でのBmi1の過剰発現により、造血幹細胞がex vivoで増幅できること、さらに連続骨髄移植実験により、骨髄再構築能が亢進することが明らかになっている(Nakamura et al., PLoS One, 2012)。そこで、Bmi1-KIを用いたPDC解析を進め、造血幹細胞のS-SあるいはS-P分裂が亢進するかを解析するとともに、Bmi1の過剰発現により、PDC間で対称性に発現する分子の同定を試みる。 3. 新規造血幹細胞特異的分子の機能解析とレポーターマウスの作製 本研究で同定したSdprは造血幹細胞での発現特異性が既に報告されている造血幹細胞マーカーと比べても高く、前駆細胞にはほとんど発現しない。そこで、GFPノックインマウスを作製し、造血幹細胞の制御におけるSdprの機能を明らかにするとともに、このレポーターマウスから造血幹細胞を分離し、細胞分裂の経時的解析を行う。
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