研究課題
B細胞を含むすべての血液・免疫細胞は造血幹細胞から作られる。その過程で多能性の造血幹細胞は徐々に分化能が限定されていき、最終的にB細胞にしかなれない前駆細胞に運命決定される。この運命決定は様々な転写因子やエピジェネティック因子によって制御されているが、詳細は明らかでない。特に、クロマチン修飾酵素複合体と相互作用することによって細胞の運命決定を制御することが示唆されている長鎖ノンコーディング(long non-coding: lnc)RNAの役割は不明である。申請者らは最近多分化能と自己複製能を兼ね備えた血液前駆細胞株(induced Leukocyte Stem:iLS細胞)を樹立した。この細胞を用いるとB細胞系列への運命決定における分子機構を調べることが出来る。そこで本研究ではこの培養系を用いてB細胞分化過程において特異的に働くlncRNAをスクリーニングし、その機能を明らかにすることを目的とする。本年度は研究計画に従い、lncRNAのスクリーニングを行った。iLS細胞からB細胞への分化誘導時における経時サンプルを用いて網羅的遺伝子発現解析を行ったところ、H19というlncRNAの発現が上昇することが明らかとなった。H19はInsulin-like growth factor 2(Igf2)の発現を制御することが報告されている。そこで、iLS細胞の分化誘導系におけるIgf2の発現を調べたところ、Igf2もB細胞分化が進むにつれて発現が上昇していた。従って、B細胞系列への運命決定においてH19がIgf2の発現を制御することが示唆された。H19は胎生期に強く発現することが報告されているが、生後はその発現が減少し、骨格筋や軟骨でのみ検出されている。従って、H19が生後の免疫細胞の発生・分化プロセスに関与することが初めて明らかとなった。
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