研究課題
B型肝炎は、B型肝炎ウイルス(Hepatitis B Virus, HBV)の感染によって引き起こされる。慢性B型肝炎の治療としては、現在抗ウイルス薬やインターフェロンによる治療が行われているが、HBs抗原陰性、HBV DNA陰性になった場合でも、核内にHBV cccDNAが存在するような潜伏感染が報告されている。そこで本研究では、HBV DNAの完全排除、複製・粒子形成の抑制を目的として、ゲノムエディティングツール(CRISPR/CAS9)によるHBV DNAの切断、配列特異的転写抑制システム(CRISPRi)によるHBV 遺伝子の発現抑制を試みた。本年度は、初めにCRISPRベクターの構築を行った。切断のためのCAS9を発現するベクターに、HBV pregenome (pg) promoter、polymeraseの領域で、ジェノタイプ間で保存性の高い配列を4か所ずつ選択し挿入した。転写抑制のためのdCAS9を発現するベクターには、HBV pg promoterに8か所、Enh1/Xpに2か所、PreS1 promoterに2か所、PreS2/S promoterに1か所を選択した。次に、HBVへの効果および細胞障害性を検討した。HBV発現プラスミドを導入したHuH-7細胞、HBV持続感染細胞(HepG2.215, HuH-7/pEB-HBV)にCRISPRベクターのトランフェクションを試みた。その結果、pg RNAコピー数がコントロールに比べて2割程度に減少する配列を見出した。また、イムノブロット、ELISAによりHBs、HBe抗原の消失または有意な減少が認められた。Luciferase reporter によるpg promoter転写活性を解析したところ、genotypeによらず効果的に転写抑制できる配列を明らかにした。これらのCRISPRシステムによる細胞障害性はみられなかった。
2: おおむね順調に進展している
本年度は、1)CRISPRベクターの構築、2)ノックアウト効率の検討、3)細胞障害性の検討、4)宿主の遺伝子発現への影響の解析、5)染色体への影響、の5項目を計画していた。1、2、3について予定通り達成できた。4、5については到達できなかったが、次年度に予定していた転写抑制のためのdCAS9のベクターについても1~3の項目を行うことができた。研究期間全体での実施項目の達成度、また成果は着実に得られている。
次年度は、1)宿主の遺伝子発現への影響の解析として、CRISPRベクターの細胞内導入、発現が宿主の遺伝子発現にどのような影響があるの検討を行う。そのためにHepG2およびHepG2.215細胞にCRISPRベクターを遺伝子導入し、宿主のmRNA(non-codingを含む)およびmiRNAなどの発現プロファイルをマイクロアレイ解析により比較検討する。2)染色体への影響の解析として、トランスファクション後に、HBV DNAではなく宿主ゲノムに変異が導入されているか否かを次世代シーケンサーにより解析する。3)他の細胞種および動物実験による効果の検討として、HBVが持続的に感染するヒト初代肝細胞(PHH)およびHepaRG細胞を用いて、HBV cccDNAのノックアウト、HBV遺伝子の転写抑制の効果を確認する。将来的には、HBV感染ヒト肝臓キメラマウスにおいて、hydrodynamic injectionによりベクターを導入し、in vivoにおいてHBV cccDNAの効果的な除去が可能かどうかを検討する。
すべて 2014
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件、 オープンアクセス 1件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (3件)
J. Virol.
巻: 88 ページ: 7541-7555
10.1128/JVI.03170-13.