研究課題
易感染性患者における多剤耐性菌感染症はしばしば難治化・重症化し、その克服が臨床課題となっている。細菌感染症に対する生体防御の一次機構において、中心的な役割を担うのが好中球である。申請者は、菌を貪食した好中球において、細胞内自己成分の分解機構であるオートファジーが誘導され、菌を内包するオートファゴソームの形成を観察した。本研究課題はこれらの所見に基づき、好中球機能とりわけ殺菌能におけるオートファジーの役割を明らかにし、このオートファジー機構の活用により好中球機能を回復あるいは増強させ、以って難治性細菌感染症に対する新規治療法の開発に繋げることを目的としている。大腸菌または緑膿菌を用いた好中球の貪食・殺菌実験系において、重症感染症などを適応とする免疫グロブリン製剤を添加すると、貪食能、殺菌能とともにオートファジーの増強を認めた。このことから、免疫グロブリンの働きによる貪食促進の結果、細胞内に大量に取り込まれた細菌の処理にオートファジーが機能していることが考えられた。さらに、Bafilomycinによるオートファジー抑制実験系において好中球の殺菌能が低下したことから、殺菌能におけるオートファジー機構の貢献を明らかにした。種々のオートファジー促進薬を用いて検討したところ、現時点において、好中球ではオートファジーの増強効果を認めるには至っていない。今後、ヒト骨髄系細胞株であるHL60についても検討を行うために、好中球様細胞への分化誘導、生存率、機能評価試験等を行い、同細胞株を用いたオートファジー実験系を確立した。また、酵母様真菌であるCandida albicansを用いた実験系についても確立することができた。今後、これらの実験系も含めてさらに解析を進める予定である。
2: おおむね順調に進展している
多剤耐性菌感染症における新規治療法の開発に繋げるために、その根幹となる好中球の殺菌能におけるオートファジー機構の役割を明らかにすることができた。活性酸素産生能の部分抑制状態では、相対的にその役割がより大きいものとなることが示唆された。また、これら一連の解析において、多剤耐性菌株に対する反応は薬剤感受性菌株と同等の成績であった。これらの所見は、好中球の活性酸素産生能の低下等に起因する易感染性患者や、多剤耐性菌感染症に対する治療応用への可能性を期待させるものである。以上の成果については、既に学術集会で公表し、また科学雑誌(査読あり)に掲載予定である。当初計画とは異なり、現時点では好中球においてオートファジーの増強法を確立できていない。既知のオートファジー促進薬は、主に培養細胞株等の長期培養が可能な実験系でその薬理作用を認めるものであり、短寿命である好中球の実験系では困難が伴う可能性も考えられる。この点については、既にヒト骨髄系細胞株を用いた実験系を確立しており、今後の進展が期待される。当初計画にはなかったが、酵母様真菌であるCandida albicansの抗真菌薬耐性臨床株を用いた実験系においても、免疫グロブリンによる好中球の貪食能、殺菌能の増強効果を認め、さらにオートファジー誘導の可能性を示唆する所見が得られた。より詳細な検討を要するものの、細菌と真菌の実験系の比較検討により、オートファジー誘導のメカニズムの解明など、新たな知見が得られる可能性も期待される。以上の進捗状況を踏まえると、概ね順調に推移していると評価できる。
好中球および新たに確立したヒト骨髄系細胞株のHL60分化誘導系において、オートファジー増強法の検討を行う。具体的には、オートファジー誘導効果を有するRapamycin、Lithiumなど諸薬剤の用法・用量のほか、飢餓状態によって誘導される培養条件等を確立する。これらの前処置により、菌を貪食させた際のオートファジー増強効果について評価する。活性酸素産生阻害薬等を作用させた健常人好中球またはHL60細胞株、あるいは易感染性患者好中球を用いた場合のオートファジーの促進による殺菌能の増強効果についても同様に評価する。その他、細胞死抑制(寿命延長)や好中球の走化性因子のひとつであるIL-8等の産生・放出等についても解析し、感染防御に寄与する他の好中球機能についても評価する。被検菌として用いる大腸菌とC.albicansの成績の比較検討を通じて、貪食依存性のオートファジー誘導のメカニズムについても解析し、既知のオートファジー促進薬とは異なる作用機構によるオートファジー促進方法についても検討する。
オートファジーの解析に用いる各種抗体について使用条件等を検討したところ、いくつかの抗体については特異性等の問題により、別途購入し直す必要が生じた。使用条件に適う抗体の入手は海外製品の輸入手配となり、納期に時間がかかり当該年度内の納品が見込めないことから次年度の発注となったため。
当初計画より、翌年度のオートファジーの解析に用いる抗体の使用量が増大することが見込まれる。また抗体はその他の消耗試薬類より高額商品である。さらに本研究課題の成果発表として科学雑誌(査読あり)への掲載が決定されたが、当初計画よりも掲載料が高額になることが判明した。したがって、翌年度分として請求する助成金に加え、次年度使用額を充てることを計画している。
すべて 2015 2014 その他
すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (2件) 備考 (1件)
Biochemical and Biophysical Research Communications
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