研究課題
易感染性患者における多剤耐性菌感染症は、抗菌薬が無効であることからしばしば難治化・重症化する。この問題を克服するには、生体防御の一次機構に中心的な役割を担う好中球を活用する視点が重要である。近年、細胞内寄生性細菌の排除機構としてオートファジーの関与が明らかにされ、新しい自然免疫機構として注目されている。本研究は、好中球機能におけるオートファジーの役割について、次のような研究成果を得た。大腸菌や緑膿菌の臨床分離株を用いた好中球の貪食・殺菌実験系において免疫グロブリン製剤を添加すると、薬剤感受性株と多剤耐性株に関わらず好中球の貪食能、殺菌能とともにオートファジーの増強を認めた。また、菌を内包するオートファゴソーム数の増加も認めた。さらに、Bafilomycinによるオートファジー抑制実験系において好中球の殺菌能が低下したことから、殺菌能におけるオートファジーの貢献を明らかにした(Itoh H et al. J Leukoc Biol, 2015)。同様の効果を造血幹細胞移植後で免疫抑制剤投与中の患者から分離した好中球においても認めた(Matsuo H, Itoh H et al. Biochem Biophys Res Commun. 2015)。以上はいずれも試験管内の実験結果であるものの、多剤耐性菌感染症における好中球機能の活用の有用性を示している。また、細胞内寄生性細菌ではなく、貪食によって好中球の細胞内に取り込まれた細菌に対する新たなオートファジー機構の存在が示唆される。オートファジー促進作用を有する諸薬剤が既に知られているものの、末梢血から分離した好中球が生存し得る短時間での機能実験系で評価した結果、オートファジー増強効果を示す薬剤は現時点で見い出せていない。好中球におけるオートファジー誘導機序の詳細を明らかにする必要があると考えられ、今後の課題である。
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