研究課題/領域番号 |
26670486
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研究機関 | 順天堂大学 |
研究代表者 |
森本 幾夫 順天堂大学, 医学(系)研究科(研究院), 教授 (30119028)
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研究分担者 |
岩田 哲史 順天堂大学, 医学(系)研究科(研究院), 非常勤講師 (00396871)
大沼 圭 順天堂大学, 医学(系)研究科(研究院), 准教授 (10396872)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | ① MERS感染症 / ② コロナウイルス / CD26 / ④ 重症呼吸器感染症 / ⑤ ヒト化CD26抗体 / アポトーシス / ⑦ CD26単クローン抗体 / エピトープ |
研究実績の概要 |
MERS(Middle East Respiratory Syndrome)コロナウイルス感染症(MERS-CoV)は、重症呼吸器感染症で、中東地域を中心に感染が拡大し死亡率は約40%と非常に高く、現時点では有効なワクチンや治療法は存在しない。MERS-CoVの受容体はCD26分子であることからMERS-CoVのCD26での結合及びMERS感染に関与する詳しいドメインの解析を行った。 我々が開発した異なるCD26エピトープと反応する6種のCD26単クローン抗体(4G8,1F7,2F9,16D4,9C11,14D10)、ヒト化CD26抗体、MERS-CoV-SI-Fc蛋白及びCD26陽性Jurkat細胞株を用いて詳しいMERS-CoVが結合するCD26ドメインを決定し更に試験管でMERS-CoVの感染抑制について検討した。 2F9抗体はMERS-CoV-SI-FcのCD26への結合をほとんどすべて抑制し、1F7及びヒト化CD26抗体は約40%その結合を抑制した。さらに試験管内で施行した実際のMERS-CoV感染実験についても2F9 はほとんど完全にその感染を抑制し、更に1F7及びヒト化CD26抗体も部分的に抑制した。2F9抗体はCD26のADA(Adenosine deaminase)の結合ドメインと反応し(aa358の近傍)、更に1F7とヒト化CD26抗体はほぼ同一のエピトープと反応(aa248 to 358)することを明らかにした。MERS-CoVのCD26への結合ドメインは主としてCD26のADA結合ドメインを中心として、さらに1F7やヒト化CD26抗体が認識するドメインであることは結晶構造解析からも明らかにされており我々の結果をサポートした。またこれらの抗体はMERS-CoV感染症の新規治療法となる可能性を示した。MERS-CoVはCD26陽性Jurkat細胞株に感染し、アポトーシスを生じて細胞を壊すという結果も得ている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
MERS-CoVの受容体はCD26分子であることが明らかになっているが、我々はCD26分子のエピトープを大きく6つに分けることができるCD26単クローン抗体をすでに有しており、これらの抗体を用いてMERS-CoVがCD26に結合する詳しいドメインを決定した。本研究において2F9 抗体が反応するCD26のADA結合ドメイン及び1F7とヒト化CD26が反応するaa248から358の部位にMERS-CoVが結合することを明らかにした。この結果はMERS-CoVとCD26との結晶構造解析とほぼ同様の結果であり、我々のCD26抗体を用いての詳しいCD26ドメイン解析が正しいことを支持した。さらにこれらの抗体は現在有効なワクチン及び治療法の存在しないMERS-CoV感染症の予防及び治療にも用いうる可能性を示唆した。本業績に基づいて我々は「MERSコロナウイルス感染予防治療剤」という名称で順天堂大学から特許出願も行っている。以上より本研究はおおむね順調に進展しているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
2F9、1F7 及びヒト化CD26抗体は試験管でのMERS-CoV感染実験においてその感染を抑制したが、モデル動物でのMERS-CoV感染実験で感染抑制を示すかどうか検討する必要がある。CD26はマウスでその遺伝子はヒトCD26の85%とそのホモロジーは高いが、ヒトCD26と反応するCD26単クローン抗体はネズミCD26とは反応しない。つまり遺伝子のホモロジーは高いがヒトCD26単クローン抗体はマウスCD26とは反応せず、MERS-CoVはマウスにおいてはその感染は成立しない。そこでヒトCD26を発現させたCD26トランスジェニックマウスをテキサス大学のDr.Tsengのグループと共同してその作成を行うことにした。 ヒトCD26トランスジェニックマウス作成過程においてCD26はDPPⅣという酵素を含みインスリン分泌を調節するGlucagon-like Peptide Ⅰ(GLP-Ⅰ)がその基質であり、高発現によりGLP-ⅠがDPPⅣ酵素により切断され不活性化されるため、当初は低インスリン分泌となり高血糖症状が生じて、継代してマウスコロニーを増やすことに困難を生じた。しかしその中でline52は継代に成功することができた。更に当マウスを用いてMERS-CoV感染も成立し、感染後多量の炎症性サイトカインが産生され急性呼吸器感染症を生じて数日以内に死亡していくことを確認した。このCD26トランスジェニックマウスを用いて2F9、1F7及びヒト化CD26抗体がMERS感染防御あるいは治療に用いうるか検討して、本抗体の治療応用の可能性を検討する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度プロジェクトでCD26トランスジェニックマウスが完成したため、このマウスを使ってテキサス大学と共同で大掛かりなMERSコロナウィルス感染実験を行う計画をたてた。この実験の経費に使用するため、本年度の予算を持ち越すことにした。
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次年度使用額の使用計画 |
CD26トランスジェニックマウスを用いてテキサス大学と共同でMERSコロナウィルスを感染させ、ヒト化CD26抗体、1F7CD26抗体、2F9CD26抗体及びコントロール抗体を投与日時を変えて投与し、これら抗体が試験管内での作用と同様にMERSコロナウィルス感染予防及び治療に有効かどうか検討する。
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