川崎病研究の最大の障害は、川崎富作博士の報告以来半世紀が経過したにも関わらず、病因が不明な点である。疫学情報からは感染症の関与が示唆される。我々は、最近、川崎病発病時のCD4+CD25+Foxp3+制御性T細胞(Treg)が極度に減少していることを発見した。一方、従来の研究では、川崎病発病時の30%の患児から市中でしばしばみられる病原体が検出される。以上から、川崎病の発病以前に、Tregを減少させる何らかの感染症が起こり(イベント1)、さらに川崎病の発症には第2の感染症が関わる(イベント2)との仮説を持つにいたった。今回の研究の目的は、BCG接種部位の発赤・腫脹を手掛かりに川崎病の発病前の検体と診断確定時に採取した検体を対象に、次世代シークエンサーを用いて網羅的な全DNA/RNAの解析を行い、既知あるいは未知の病原体を同定して、上記の仮説を証明することである。 研究計画について、名古屋大学医学部の倫理委員会で承認を得た。名古屋大学医学部附属病院の関連病院においても、各施設の倫理委員会で承認を得て、検体の収集を開始した。収集した検体のうち、発病前・あるいは発病直後と考えられる4検体について全DNA/RNAシーケンス解析を行った。得られた配列のうち、ヒト由来の配列、並びに次世代シーケンス解析のアーティファクトと考えられる配列を除外したのち、データベースに基づく既知病原体の検出と、de novoアセンブルに基づく未知病原体の検出を行った。しかしながら、いずれについても病原体の確定には至らなかった。
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