研究課題
先天性心疾患の外科治療では人工血管が多く使用されており、小児に理想的な人工血管とは、異物の残存や石灰化がなく、成長する可能性があるものと考えられている。さらに動脈グラフトには体血圧に耐えられる高い弾性が必要である。しかしながら理想的な動脈グラフトは近年の顕著な再生医学の進歩にも関わらずいまだ実現していない。我々は先行研究で、ラット大動脈平滑筋細胞に細胞外基質の薄膜を作ることで細胞を積層し、高い弾性を有する多層の三次元平滑筋細胞シートを作製することに成功した。先行研究の技術をもとに、本研究ではヒト臍帯動脈平滑筋細胞を用いて生体素材のみからなる小児用の新規動脈グラフトを開発することを目的とした。ラット新生児大動脈平滑筋積層細胞体の厚みは15層の場合約200 マイクロメートルとなった。重層された細胞シートの弾性をDMT社のティッシュープラーを用いて張力を測定した。この2方向の引っ張り試験より、この平滑筋細胞積層体の張力はマウス大動脈の中膜とほぼ同等であることが確認された。また電子顕微鏡やエラスチカワンギーソン染色で弾性線維が構築されていることも確認できた。さらに、ラット平滑筋シートをパッチグラフトとして、ラット腹部大動脈に移植したところ、2.5ヶ月の生存を確認し、内皮化も良好で狭窄も認められなかった。
1: 当初の計画以上に進展している
平成27年度に予定していた、ラット新生児大動脈平滑筋細胞を用いた血管シートは安定して作製することができ、組織学的にも弾性線維の構築が確認された。さらに張力試験で、作製した血管シートは生体の血管と同等の張力を有することも確認でき、血管シートのラット同種移植に成功した。これらの進捗により到達度は予定以上の進捗とした。
平成27年度はラットの同種移植に耐えられる血管シートを作製することに成功した。平成28年度は移植数を増やして、長期予後を検討する。内皮化や狭窄の程度を免疫染色、マイクロCT、超音波検査、尾動脈を用いた血圧測定などで検討する。平滑筋細胞は種族や年齢、部位により大きく形質が変化することが知られている。平成28年度は、ラットの同種移植に加えて、ヒト由来細胞でのグラフト作製に取り組む。ヒト臍帯動脈由来の平滑筋細胞シートを作製し、高い弾性を有する培養条件の最適化を行う。最終的にはヒト臍帯動脈由来の平滑筋細胞シートを、動物に移植し、動脈グラフトの開存性、耐久性、成長性の有無を検討する。
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