研究課題/領域番号 |
26670507
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研究機関 | 名古屋市立大学 |
研究代表者 |
齋藤 伸治 名古屋市立大学, 医学(系)研究科(研究院), 教授 (00281824)
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研究分担者 |
吉浦 孝一郎 長崎大学, 学内共同利用施設等, 教授 (00304931)
井原 義人 和歌山県立医科大学, 医学部, 教授 (70263241)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | Gillespie症候群 / 小脳萎縮 / 虹彩欠損 |
研究実績の概要 |
Gillespie症候群(GS)は小脳失調、知的障害、無虹彩を特徴とする稀な疾患である。原因は不明であったが、私たちは日本人GS患者4名を集積し、全エクソーム解析を実施した。その結果、遺伝子AのC末端にde novo変異を4名全員に同定した。遺伝子AのC末端領域以外の変異はすでに他の小脳失調患者で報告されていたが、これらの患者では虹彩欠損は報告されていない。従って、遺伝子AのC末端領域は小脳での役割と独立して、虹彩発生に必須の役割を果たしていると考えられる。そこで、C末端蛋白の役割を解明することを目的として、C末端特異的抗体を作成し、マウスにおけるC末端蛋白の存在様式を検討した。ウェスタンブロットでは、眼特異的な短い蛋白の同定に成功した。免疫組織化学において、C末端蛋白は胎生期の前眼部に存在し、虹彩形成の主要な蛋白であるPAX6と一部共局在を示した。従って、C末端蛋白は虹彩発生に重要な役割を果たしていることが示された。 完全長遺伝子Aはカルシウムチャネルをコードしている。そこで、同定された遺伝子変異をHEK293細胞に導入して、カルシウム動態について検討を行った。その結果、変異蛋白はカルシウム流入を軽度に障害することが示された。 GS患者の遺伝子解析システムを構築するために、次世代シークエンサーであるIon PGMを用いた解析系を立ち上げた。臨床的にGSが疑われる患者の解析を行い、新たに1名に変異を同定した。この遺伝子診断システムは臨床的にGS診断に有用であることが示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
遺伝子AのC末端に対する抗体を作成し、蛋白の発現について検討することができた。作成した抗体の特異性が不十分であったために、V5 tagをC末端に融合した遺伝子AをES細胞に発現させ、ノックインマウスの作成を行った。抗V5抗体を用いることで、特異的な信号を得ることができ、C末端蛋白の発現について検討することができた。C末端蛋白の発生的な意義については概ね情報を得ることができている。 一方、CRISPR/Casシステムを用いたC末端特異的な遺伝子変異の導入実験については、目的の変異が導入されたマウスが未だに得られていない。この点については、コンストラクトの設計をやり直しているところである。 遺伝子変異による遺伝子Aのカルシウムチャネルに与える影響については、十分な情報を得ることができ、この点については、予定通りに実験が進んでいると評価できる。 C末端遺伝子とPAX6との相互作用については、種々の実験を行っている。免疫沈降などの手法では、蛋白どうしの結合は示されていない。一方、C末端蛋白はPAX6のプロモータ領域に結合するプレリミナリーなデータが得られており、C末端蛋白はトランスクリプションファクターとしてPAX6の発現を制御している可能性が考えられている。 臨床的には、次世代シークエンサーを用いた遺伝子解析システムの構築を行うことができた。引き続き、症例の集積を進めることで、GSの遺伝型表現型連関について解析を進めることで、臨床診断の指針の作成の基盤を構築することができた。
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今後の研究の推進方策 |
遺伝子AのC末端にV5 tagを融合させた蛋白を発現するノックインマウスを用いたC末端蛋白の発生時間的、空間的発現について詳細に検討し、完成をさせる。本実験については、系の確立ができたので、着実な推進が期待できる。 CRISPR/Casによる変異導入マウスの作成については、これまでのスクリーニングでは求める変異の導入が得られていないので、配列の設計を見直し、変異導入マウスを得るための実験を続ける。CRISPR/Casで変異導入が取れない場合は、コンベンショナルなノックインマウスの作成に切り替えることを検討する。 C末端蛋白とPAX6との相互作用については、C末端蛋白のPAX6遺伝子調節領域との結合が示されているが、確定的ではない。そこで、PAX6のプロモータ領域を含むレポータープラスミドを調整し、C末端蛋白の結合部位の同定を予定している。 臨床的には、本年度の研究にて樹立した次世代シークエンサーによる遺伝子解析系を用いて、GSの遺伝子診断を進める。特に、非典型的な症状を示す患者、即ち、虹彩欠損の存在しない小脳萎縮患者や小脳症状の存在しない虹彩欠損の患者を対象として遺伝子解析を行い、C末端蛋白の異常により発症する疾患の全体像を明らかにすることを目指す。 更に、C末端蛋白の生物学的役割に基づく治療法開発のために、患者由来細胞株やモデルマウスを用いて、薬物スクリーニングの系の確立を行って行きたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
実験が効率的に進んだために、予定よりやや少ない消耗品で賄うことができたため。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度使用額は57,341円とわずかであり、消耗品の購入に充当される予定である。
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