研究課題/領域番号 |
26670518
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研究機関 | 秋田大学 |
研究代表者 |
蓮沼 直子 秋田大学, 医学部, 准教授 (10282170)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | PipkIII / 壊疽性膿皮症 / オートファージー / 遺伝子改変マウス |
研究実績の概要 |
壊疽性膿皮症は原因不明の炎症性疾患であり、治療に難渋する皮膚疾患の一つである。最近、興味深いことに、イノシトールリン脂質代謝酵素Pipk IIIの腸上皮細胞特異的欠失マウスは、本症と共通の病態基盤を持つと推測されているクローン病に類似した組織像を示すことが報告された。そこで、本研究では、Pipk IIIの表皮特異的欠失マウスを作成し、壊疽性膿皮症の皮膚病変との類似性を形態学的に観察するとともに、マイクロアレイ法を利用することにより、炎症反応や薬剤感受性に関わる遺伝子発現を網羅的に解析する。 この課題を達成するため、まずK5-CreマウスとPipk III flox/floxマウスを交配して、角化細胞特異的Pipk IIIホモ欠失マウスを作成し、これらのマウスにおける皮膚の形態学的変化を解析した。その結果、残念ながら此のマウスは出生直後に死亡し、また病理学的には、表皮全体が著しい空胞変性を示し、浸潤細胞は疎であった。 そこで、本研究戦略を断念し、生存が可能でTamoxifenを塗布するとCreを発現する、Tamoxifen誘導型Cre発現マウスを用いて、さらなる研究を遂行することにした。具体的には、まずTamoxifen誘導型Cre発現マウスとPipk III flox/floxマウスを交配して、Tamoxifen誘導型Pipk III欠損マウスを作成した。このマウスの皮膚表面にTamoxifenを塗布し、皮膚の形態学的変化を解析したところ、興味深いことに、表皮や附属器上皮内に空胞化した大型の細胞が孤立性に増殖していた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
K5-CreマウスとPipk III flox/floxマウスを交配して、角化細胞特異的Pipk IIIホモ欠失マウスを作成し、これらのマウスにおける皮膚の形態学的変化を解析したが、予想された結果は得られなかった。すなわち、此のマウスは出生直後に死亡し、また病理学的には、表皮全体が著しい空胞変性を示したものの、浸潤細胞は疎で、壊疽性膿皮症に特異的な好中球の浸潤が認められなかった。すなわち、Pipk IIIの欠損により角化細胞より炎症惹起物質が産生されると予想していたが、真皮に病変が及ぶ前にマウスが死亡した。 此の理由を考察すると、表皮が広範囲に壊死して、著しい体液の漏出が起こり、全身熱傷様の病変を形成したため、マウスが生存できなかったものと思われる。そのため、今後は此のマウスより培養表皮細胞を採取し、詳細な解析を実施することは困難であると予想された。そこで、Tamoxifen誘導型Cre発現マウスとPipk III flox/floxマウスを交配して、Tamoxifen誘導型Pipk III欠損マウスを作成し、同様の研究戦略を推進した。その結果、生存可能なマウスが得られ、このマウスの皮膚表面にTamoxifenを塗布すると、表皮や附属器上皮内に空胞化した大型の細胞が孤立性に増殖しているなどの興味深い病理学的所見を示した。
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今後の研究の推進方策 |
上記のTamoxifen誘導型Pipk III欠損マウスを用いて、以下の計画を遂行する。 まず、PipkIIIの欠失による炎症反応の自然発生を解析するため、Tamoxifen誘導型Pipk III欠損マウスの皮膚表面にTamoxifenを塗布し、壊疽性膿皮症に類似した病変が再現されるかを検討するため、炎症反応の発生を経時的に観察する。 次いで、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)が壊疽性膿皮症を誘発することが知られているので、Tamoxifen誘導型PipkIII欠損マウスの皮膚表面にTamoxifenを塗布した後、GM-CSFを皮内注し、炎症反応の発生を経時的に観察する。 さらに、Pipk IIIの欠失によるオートファジーと細胞内小胞輸送系の異常を解析するため、オートファジー・マーカーや小胞輸送・細胞極性に関与する蛋白に対する抗体で免疫蛍光染色を行い、炎症性腸疾患に類似した異常の有無を検索する。 また、Pipk IIIを欠失したマウスの皮膚に生じた炎症反応は、炎症惹起物質が関与しているものと推察される。Tamoxifen誘導型Pipk III欠損マウス皮膚における遺伝子発現を網羅的に解析するため、角化細胞と線維芽細胞を採取・培養した後にmRNAを精製し、野生型マウスより得られたmRNAを対照として、DNAマイクロアレイを行い、病変の形成に寄与する分子のスクリーニングを行う。 最後に、抗TNFα抗体が炎症反応を抑制するかを検討するため、抗TNFα抗体を継続的に全身投与し、炎症反応の発生を肉眼的・組織学的に観察する。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究費は主にマウスの飼育費として使用したため、495円を次年度の使用額として繰り越した。
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次年度使用額の使用計画 |
本年度は、マウスの飼育費に加えて、免疫染色や免疫ブロットをはじめとする細胞生物学的実験に研究費を使用していく予定である。
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