重曹扁平上皮では、基底細胞の基底膜に対して垂直方向におこる非対称分裂が細胞の分化と上皮の重層化とを決定する。しかしながら、非対称分裂をつかさどる上位のシグナル分子は不明であった。我々はphosphoinositide-dependent kinase 1 (PDK1) が上皮の非対称分裂に重要な分子であることを明らかにした。phosphatidylinositol triphosphate (PIP3) の産生と PDK1 の活性化は基底細胞の上方の細胞間接着部位で起こる。PDK1 によって、非定型 protein kinase C (aPKC) が基底細胞上方へと分布して非対称に活性化し、apical complex を形成する。PDK1 を欠損する表皮では apical complex を形成できず、基底細胞の非対称分裂が減少する。また、PDK1を欠損するケラチノサイトではカルシウムによる aPKC の活性化も起こらない。PDK1欠損表皮では、非対称分裂の下流で細胞の分化に機能する Notch の発現が低下する。活性化型 Notch の強制発現によってPDK1欠損ケラチノサイトの分化は回復する。以上より、PDK1シグナルは、基底細胞の上方において、aPKCおよび apical complex の活性化、形成を介して、基底細胞から有棘細胞への分化を支配することが示唆された。
|