研究課題/領域番号 |
26670532
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研究機関 | 琉球大学 |
研究代表者 |
上里 博 琉球大学, 医学(系)研究科(研究院), 教授 (10137721)
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研究分担者 |
高橋 健造 琉球大学, 医学(系)研究科(研究院), 准教授 (80291425)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 背部弾性線維腫 / ハプロ接合性の喪失 / 遺伝性腫瘍 / 母斑性腫瘍 / 次世代シークエンサ |
研究実績の概要 |
沖縄西方諸島に集中して発症する、弾性線維腫の原因遺伝子の同定を目的とする。この背部弾性線維腫(弾力線維腫:elastofibroma dorsi)は、中年以降の肩甲骨下部に発症する稀な線維芽細胞系譜の良性腫瘍であるが、その発生例の大部分はフィンランドと沖縄県の一部に集中する。中でも沖縄本島の西方近傍に位置する粟国島・渡名喜島・渡嘉敷島の出身者が主で、南方系の宮古、八重山地方では発症しない。琉球大学整形外科の長嶺信夫博士等が戦後に、200例以上の症例をこの小諸島出身者において報告しており、これら諸島は2100名程の島人口でもあり、その患者集積度は非常に高い。この背部弾性線維腫の約3割の患者には家族歴があり、1割の患者には両側性の発症が観察されている。即ち、近過去におけるこの諸島への移入者の中での、ビン首効果によるファウンダーエフェクトの強い影響による遺伝子変異の域内への拡散があったと考えられる。 この稀な間葉系腫瘍はその疫学的背景より、固有の癌抑制遺伝子のヘテロ接合性の喪失を発症メカニズムとして生じる家族性の腫瘍と考えられる。本研究課題では、この弾性線維腫を疾患モデルとして、ヘテロ接合性の喪失で生じる稀な遺伝性腫瘍や発生段階で生じる母斑症など、連鎖解析などの従来の手法では症例数が乏しく、絞り込みが困難であった稀少疾患の病態解明を、ごく少数の患者の参加のみで原因遺伝子の同定を可能とするアルゴリズムの確立を、全エクソーム解析と比較ゲノムアレーの結果を、腫瘍組織と患者末梢血ゲノムについて差分し、相補的に解釈することで可能とする。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
非常に狭い生活圏内である沖縄西部諸島に多発する弾性線維腫の原因遺伝子の同定により、1-2例の患者参加のみで、ヘテロ接合性の喪失型変異による優性遺伝性疾患の原因探索を可能とするアルゴリズムの実証を目標とする。倫理委員会の承認後に、沖縄西部出身の弾性線維腫の患者の手術機会を得た。ヘテロ接合性の喪失により生じた腫瘍組織は、原因遺伝子の両アレルに生来的な変異と、後天的な獲得性の変異を独立して持つことを基盤として、原因遺伝子のスクリーニングを行っている。1名の弾性線維腫患者の腫瘍組織と末梢血単球分画よりゲノムDNAを抽出し、比較ゲノムアレー法と全エクソーム解析を行い相補的に解釈した。比較ゲノムアレーと平行し、患者腫瘍ゲノムと、末梢血ゲノムのHiSeqレベル次世代シークエンサーによるエクソーム解析を行い、標準化日本人ゲノムのデータベースをコントロールとして用いた。両者のゲノム間の遺伝子変異を差分することで、腫瘍組織に後天的に生じた遺伝子変異を全て拾い上げた。選択した多数の遺伝子の中で、末梢血ゲノムにおいても生来的に同一の遺伝子内に別個の変異や欠失があることが、目的の原因遺伝子の必須条件である。次にアミノ酸置換のない同義的変異等をソフト解析で除き、既にヒトの疾患原因として既知の遺伝子における変異を除外すると、その病態的意義付けが不明な新規の遺伝子変異は、この1人の背部弾性線維腫患者より、既に7つの候補遺伝子に絞ることが出来た。さらに弾性線維腫もモデルとして稀な遺伝性腫瘍・母斑症の原因遺伝子の同定を、ごく少数の患者の参加のみで可能とする解析アルゴリズムを完成したい。
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今後の研究の推進方策 |
この条件で絞り込まれた候補遺伝子に関し、これまでに集積した多数の病理固定組織の中に共通する生来的な遺伝子変異と、独立した獲得性のアレルの変異も確認することで、あと1-2症例の患者の同様の解析のみで、原因となる癌抑制遺伝子の同定が可能であると考える。今年の夏休みに予定する2名目の弾性線維腫の患者の手術を待つ。 また琉球大学に備わる多数の弾性線維腫の切除病理パラフィン固定標本よりゲノムDNAを回収し、26年度のエクソームと比較ゲノムアレー解析で、候補遺伝子として絞り込んだ複数個の候補遺伝子に関し、その生来的な変異が沖縄地方の弾性線維腫組織に共通している変異を選択する。このスクリーニングにより真の原因遺伝子を絞り込むことが可能となる。この変異確認は各遺伝子のエクソン領域をPCR増幅後に塩基配列を確認することで十分であり、こうして原因遺伝子と同定した遺伝子の全エクソン領域をPCR増幅し、後天的な2対目のアレルの変異も検索する。この獲得性の後天的な遺伝子変異は、各患者腫瘍組織で独立して生じていると考えられ、まったく別個の変異が同じ原因遺伝子内に検出されると考える。 さらにこの原因遺伝子の生物学的活性を確認すべく、腫瘍の発生母地であると考えられる培養線維芽細胞に siRNA法により、その遺伝子活性を消失し、この腫瘍の特性である弾性線維の発現亢進を確認することで、さらにその確証を高めこれを最終的な3次スクリーニングとして考える。比較ゲノムアレーと全エクソーム解析の組み合わせにより、ごく少数、あと1名の患者サンプルの解析でも、ヘテロ接合性の喪失による遺伝性腫瘍の原因の同定は可能であると推計する。
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