研究実績の概要 |
毛包バルジ部に存在する表皮幹細胞は、発生期を通して多能性・自己複製能・休眠性等の特性を獲得するが、その獲得に関わるメカニズムはよく知られていない。最近申請者らは、バルジ表皮幹細胞が腱細胞としての性質を併せ持つことにより、立毛筋が毛包バルジ部に接続されることを報告した。本研究では、毛包幹細胞が表皮細胞としての性質に加え、立毛筋制御のための腱様機能を持つというmulti-functionalityが幹細胞としての性質決定に関わるとの仮説を立て、それを検証した。その結果、以下の実験結果を得た。1) バルジ表皮幹細胞とその他の性質の異なる毛包表皮幹細胞をFACS分離し、それら細胞群の遺伝子発現プロファイルをRNA-seq法により比較した。Gene Ontology解析の結果、バルジ幹細胞において、Muscle development, Skeletal developmentという筋肉-組織接続部に特徴的な遺伝子の発現が強く誘導されていることが明らかとなった。2) バルジで特異的に発現する腱組織のmaster regulator転写因子Scleraxis 欠失マウスを用い、腱細胞を特徴付ける遺伝子の発現がバルジ幹細胞の特性決定に関わるかどうかを検証した。表皮特異的にScleraxisを欠損するマウスを作製し、それが毛包の組織形態とバルジ幹細胞のグローバルな遺伝子発現状態に及ぼす影響を解析した。しかし、現在のところ、毛包形態や幹細胞の遺伝子発現に顕著な異常を見出すには至っていない。本研究を通して、バルジ表皮幹細胞が筋肉-組織接続部に特徴的な遺伝子を発現していることが明らかとなった。今後は、本研究で同定されたScleraxis以外の腱組織特異的な遺伝子の機能解析を進めることで、「幹細胞の器官内におけるmulti-functionalityが幹細胞を特徴付ける」という概念の創出を目指す。
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