研究実績の概要 |
原爆被爆者等の疫学調査では心筋梗塞や脳梗塞のリスクが閾値なしで直線的に増加し、1mSv以上被ばくした原爆被爆者に発症した心筋梗塞は厚生労働省により原爆症と認定される。福島原発事故では、1mSv以上外部被ばくした住民は148,685人におよび、放射線被ばくによる心筋梗塞・脳梗塞の予防が重要となる。非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)が血管内皮の損傷を促進するという報告があり、心筋梗塞後のNSAIDsは再発のリスクを高め、インフルエンザ脳症のリスクを高める。本研究では、放射線による心筋梗塞の原因の一つとされる血管内皮細胞のTNF-α、E-セレクチン、ICAM1、VCAM1の発現亢進が、NSAIDsによって亢進するかどうかを検討した。臍帯由来の培養ヒト血管内皮細胞を用いて、ICAM-1、VCAM-1、E-selectinの発現に及ぼす10 Gy照射の影響を検討した。実験の結果、放射線照射後6時間後に一過性にICAM-1の発現が亢進したが、VCAM-1とE-selectinの発現は放射線照射による影響を受けなかった。次に5種類のNSAIDsを用いて、放射線によるICAM-1の発現亢進に与える影響を検討した。実験の結果、5種類のNSAIDsのうち、4種類でICAM-1の発現亢進が認められた。これらの結果を論文として発表した(Uehara Y., Hosoi Y., et al., BBRC 479: 847-852, 2016)。培養細胞で得られた結果がin vivoで確認できる可能かを目的として、アポEノックアウトマウスをアメリカから輸入して実験を行った。その結果、胸部大動脈と腹部大動脈の動脈硬化に関しては、NSAIDsを放射線と併用することにより動脈硬化を促進することはなかった。
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