研究課題/領域番号 |
26670548
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
坪井 康次 筑波大学, 医学医療系, 教授 (90188615)
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研究分担者 |
善光 純子 筑波大学, 医学医療系, 研究員 (20710148)
伊藤 敦夫 独立行政法人産業技術総合研究所, その他部局等, 研究員 (30356480)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 放射線治療生物学 / 免疫応答細胞死 |
研究実績の概要 |
我々はマウス大腿皮下と脳内に腫瘍細胞を移植したモデルを用いて、大腿皮下腫瘍に対するX照射により、脳内に誘導されるがん免疫応答について検討してきた。 マウスの大腿皮下に移植した腫瘍にX線照射した後、頭蓋内へ同じ腫瘍細胞を再移植すると、大腿皮下の腫瘍が治癒した個体では、脳内で腫瘍は形成されず、全例で長期生存した。一方、皮下腫瘍が増大した個体では、脳内に腫瘍が形成されるのみならず、脳だけに移植した群よりも増殖が速く、生存期間は有意に短縮された。照射された部位の腫瘍の反応によって、ドラスティックに予後が異なることが明らかとなった。 このように皮下腫瘍増悪群で脳内の腫瘍増殖が早くなる現象は、Phoenix Rising(腫瘍への放射線照射後の強力な腫瘍再増殖)と類似した現象と考えられ、このメカニズムについては、死細胞から放出されるCaspase-3によるPhospholipase Aの活性化と、それに続くアラキドン酸カスケードにより産生されるPGE2によると考えられている。また腫瘍細胞からはTGF-βやPGE2など免疫抑制作用を持つ生理活性物質が放出されるが、中でも、PGE2はTh1やNK細胞への抑制シグナルとなる。したがって、PGE2の産生をNSAIDsなどで抑制することによって、放射線照射による腫瘍免疫を賦活化できる可能性がある。そこで、照射後にアジュバントを腫瘍内投与し、脳へ腫瘍細胞移植後にインドメタシンを経口で連続投与したところ、有意差には至らなかったが(P = 0.1028)、生存率の改善を見ることができた。 また、大腿皮下の腫瘍が治癒した個体で脳へ再移植した腫瘍が拒絶される現象は、照射による脳内へのアブスコパル効果の存在を示唆している。放射線照射による免疫応答をさらに賦活できれば脳での腫瘍の再発や転移の抑制が可能である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
大腿皮下の腫瘍がX線照射により治癒した個体では脳へ再移植した腫瘍が拒絶された。これらの個体では、脾細胞を用いたエリスポットアッセイにてINF-gammaが産生されていることが確認できた。さらに、脳切片では、移植した腫瘍が拒絶される際に、CD8陽性のCTLが浸潤していることも認められたことから、腫瘍の拒絶は、腫瘍特異的細胞性免疫の賦活による「アブスコパル効果」が脳内へ波及したためと考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの結果から、放射線の局所的照射により腫瘍細胞死が誘導され、個体の中での治癒機転が腫瘍の再増殖に勝り、最終的に治癒に至った場合には、腫瘍に対する特異的免疫が賦活されることが示された。今後は、このような放射線による免疫学的細胞死誘導のメカニズムを明らかにするとともに、この効果を増強させる方法を明らかにする方針である。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度は予定していた旅費の支出がなかったため、次年度使用額が発生した。
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次年度使用額の使用計画 |
研究計画に従って、旅費・物品費として支出する計画である。
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