研究課題
近年、幹細胞様形質を持つごく少数のがん細胞(がん幹細胞)が固形腫瘍内の低酸素環境下に存在し、放射線治療後の再発に関わっている可能性が指摘されている。平成26~27年度の2年間に亘る本研究では、「薬剤の投与を引き金に低酸素がん細胞を腫瘍内から一掃できる新たなモデルマウスを確立すること」、そして「②当該モデルマウスを活用して、腫瘍内低酸素領域ががん幹細胞ニッチであるか否か、また、放射線治療後の再発源であるか否かに迫るインビボの実験」を実施することを計画している。平成26年度は当初の計画に従って、低酸素誘導性因子1(HIF-1)に依存して低酸素環境下で自殺遺伝子(ジフテリアトキシン受容体)の発現を誘導するベクターを構築した。そしてこれをがん細胞株に安定に導入し、低酸素環境下でジフテリアトキシン依存的に死滅する遺伝子組換えがん細胞株を樹立することに成功した。さらに、当該細胞株を免疫不全マウスに移植することによって、移植腫瘍内の低酸素がん細胞の生死を自在にコントロールできる実験系を確立した。本モデルマウスは、固形腫瘍内低酸素がん細胞の重要性を直接的に解析するツールとして有用であり、次年度以降のインビボ実験で当初の目的を達成できる見込みが付いたといえる。
1: 当初の計画以上に進展している
当初の計画通りに、低酸素培養条件下でジフテリアトキシン依存的に細胞死を誘導できるベクターの構築と、このベクターを安定に組み込んだがん細胞株の樹立を終えることが出来た。また、当初は平成27年度に計画していた研究項目、すなわち同細胞株を免疫不全マウスに移植して、移植腫瘍内低酸素がん細胞の生死を自在に制御できることを確認することも終えたことから、当初の計画以上に研究が進展していると自己評価した。
低酸素環境下でジフテリアトキシン受容体依存的に死滅する遺伝子組換え細胞株をヌードマウスに移植し、固形腫瘍を形成させる。これを対象に以下の研究を実施する。1. 移植腫瘍を摘出し、ジフテリアトキシン受容体やHIF-1αタンパク質を検出する免疫組織染色実験を実施する。そして、HIF-1依存的プロモーターの機能によって、移植腫瘍内の低酸素領域でジフテリアトキシン受容体の発現が誘導されていることを確認する。2. 1.の担がんマウスに様々な用量のジフテリアトキシンを投与して腫瘍組織を摘出、TUNNEL 染色実験を行うことにより、固形腫瘍内部の低酸素領域において効率良く細胞死を誘導できる投与量を最適化する。これをもって、悪性固形腫瘍内低酸素がん細胞の生死を自在に制御できるモデルマウスを確立する。3. 2.の如く移植腫瘍内の低酸素がん細胞を一掃することによって、放射線治療後のがんの再発率が変化するか否かを検討する目的で、Tumor Control Dose50 Assay (TCD50 Assay:局所制御率50%を達成するために必要な放射線量を定量する実験法のこと)をはじめとするインビボ実験を実施する。
年度末に入手出来る予定であった海外製研究試薬の輸入に時間がかかり、年度内に入手できなかったため。
次年度の初めに研究試薬を輸入して、研究を実施する。
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すべて 雑誌論文 (8件) (うち国際共著 1件、 査読あり 8件、 謝辞記載あり 4件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (6件) (うち招待講演 6件) 備考 (3件)
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