正常組織は複数種の細胞で構成され、各々で生じた放射線反応の複合が正常組織反応となる。この場合、細胞種毎の寄与の程度は明瞭ではない。しかるに、BNCTではホウ素集積が細胞種毎に、従って与えられる線量が異なるので、ホウ素集積とミクロ分布が分かれば上記の問題を解明することが出来る。我々が独自に開発した高精度αオートラジオグラフィー(ARG)ではミクロ分布と濃度を検索できる。この手法を応用し、上記の未解明の課題に挑戦する。また、同手法でがん細胞への集積性、体内分布と化合物構造の関係を解明する。 上記目的での研究を予定していたが、結果的に研究期間中に研究炉が再稼働せず(毎年、暫時先送りとなった)、高精度ARGを行うことが出来ず、結果として当初計画どおりの研究を進めることができなかった。そこで、過去の実験データや他研究者に依って行われた実験結果の報告を、報告者らが全く考えてもいなかった視点で再解析した結果、正常組織反応を支配するマクロ要素を明らかに出来た。 正常組織のCBEファクター値を説明する新たな式を見つけることが出来た。脳組織での放射線壊死をエンドポイントとした時、ホウ素化合物BPAの場合はCBE値=0.32+N/Bx1.65、ここでNおよびBは正常脳組織と血中の各々のホウ素濃度、で表し得ることが明らかになった。BSHの場合は、0.36と低値になった。肺の線維症を指標にした場合、BPAではCBE値=0.32+N/Bx1.80となった。BSHについては解析すべき実験データの報告が無かった。このことから、BPAの脳でのCBE値には正常組織のホウ素濃度が重要であることが分かったので、その濃度を低減する手法を探索した。BPAの投与前にPA(フェニールアラニン)を前投与しておくと、脳でのホウ素濃度は劇的に低減し、治療可能比が大きく上昇することが分かった。
|