研究課題/領域番号 |
26670561
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研究機関 | 島根大学 |
研究代表者 |
猪俣 泰典 島根大学, 医学部, 教授 (90176462)
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研究分担者 |
稗田 洋子 島根大学, 医学部, 助教 (00181058)
玉置 幸久 島根大学, 医学部, 講師 (40457099)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 放射線治療 / 放射線増感剤 / 過酸化水素 / 抗酸化酵素 / アポトーシス |
研究実績の概要 |
本研究は過酸化水素がペルオキシダーゼ/カタラーゼを分解して無害な水と酸素を生ずることを利用して、放射線治療に過酸化水素を併用することによる抗腫瘍効果を明らかにすることで放射線治療の向上に資することを目的としている。 過酸化水素が放射線の効果を高める可能性についてこれまでに乳がん患者等の進行・再発がんに対して放射線照射腫瘍組織に直接過酸化水素を投与することにより著明な抗腫瘍効果が得られることを小川らは見いだしており、優れた放射線増感効果のメカニズムとして、放射線の照射により生じたハイドロキシラジカルを主体とするフリーラジカルによる間接作用がDNA障害のみならずリソソーム/ミトコンドリアの断片化をもたらしてアポトーシスが大きく関与していることを臨床的および実験的に明らかにする本研究の趣旨に沿って以下の検討を進めている。 われわれは進行・再発乳がんや再発・転移腫瘍を中心とする患者に対して放射線治療の直前に、表在性がんでは0.5%過酸化水素水ガーゼを患部に塗布、深部腫瘍に対しては腫瘍局所に超音波やCT等の画像ガイド下にて、週に2回の割合で腫瘍内に均一に0.5%過酸化水素水を含有する0.83%ヒアルロン酸ナトリウムを20Gy照射後より注入し通常の放射線治療を1回2Gy照射して週5回照射法にて総計18Gy-66Gy行った。治療患者の治療効果は極めて良好でCR 60%, PR 32%で奏効率は92%に及んでおり、通常の放射線治療では制御が極めて困難である症例に対してすぐれた放射線増感効果を得ており、次年度以降に引き続いて検討を行う。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
臨床上みられるアポトーシスは悪性リンパ腫等の例外を除いて通常はきわめて限定的に起こると考えられているが、過酸化水素がアポトーシスを阻害しているペルオキシダーゼ/カタラーゼを分解することに着目して、過酸化水素を放射線治療と併用することにより放射線で本来起こるアポトーシスを発揮させることで難治性の腫瘍や進行癌に対する治療成績の大幅な向上に資することが本研究の主目的である。 本研究では進行がんに対してすでに十分な抗腫瘍効果を生ずること明らかにしておりこの点に関してはほぼ順調に進展していると考える。通常の放射線治療では制御が極めて困難である症例に対してすぐれた放射線増感効果を得ており、昨年度に実験的検討による基礎的な裏付けを明らかにする予定であったが、人的要因により予定が大幅に遅れたことにより1年間の猶予を申請した。
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今後の研究の推進方策 |
本研究の最終目的は過酸化水素が放射線増感作用を有しており治療効果を高めることを臨床的・基礎的に明らかにすることにある。 In vivoの検討ではマウスの腫瘍に過酸化水素を投与すると、人間では問題とならない酸素の発生がマウスでは致死的な肺の空気塞栓を起こすことが判明した。抗酸化酵素の分解の結果生ずる酸素は必然的に生ずるものであり、酸素の発生を抑制することは同時に放射線増感効果の失活を意味するので酸素の発生を抑制する方策を講ずることは困難である。 そこで今後の方向性としては研究計画を一部変更してin vitroでの実験モデルを再構築し、研究のもうひとつの目的であるリソソームやミトコンドリア等の細胞内小器官がDNA損傷とともにアポトーシスを介した殺細胞効果が重要な役割を演じており、この本来の働きをペルオキシダーゼ/カタラーゼが阻害していることを明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
予定していた実験計画が人的な要因により遅延したために、それに伴う経費を使用しなかったために次年度使用額を生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
In vitroでの実験モデルを構築し、研究の目的のひとつであるリソソームやミトコンドリア等の細胞内小器官がDNA損傷とともにアポトーシスを介した殺細胞効果が重要な役割を演じており、この本来の働きをペルオキシダーゼ/カタラーゼが阻害していることを明らかにする。
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