研究課題/領域番号 |
26670573
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
芳賀 早苗 北海道大学, 保健科学研究院, 博士研究員 (60706505)
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研究分担者 |
小澤 岳昌 東京大学, 理学(系)研究科(研究院), 教授 (40302806)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 光イメージング / 細胞療法 / 生存 |
研究実績の概要 |
本年度は、細胞生存に重要なAkt分子の機能を光により制御するためのプローブのデザインと作製および細胞レベルでの機能解析、および同分子機能を細胞内でモニタリングするためのプローブのデザインと作製を主に進めた。 1. Akt分子機能の制御プローブは、植物由来の青色光感受性タンパク質を利用してデザインし、作製した。これは、プローブ導入細胞に青色光を当てることにより、光感受性蛋白質の特性を利用して目的分子を活性化させる仕組みである。プローブ作製後、細胞内にこれらプローブを発現させて、実際にAkt分子が活性化されるかどうかを検討した。プローブ導入細胞に光刺激したところ、細胞内のプローブタンパクは、確かに光依存性の局在変化を示し(蛍光タグよる観察)、また、光によって外因性Akt自身のリン酸化(活性化)を確認することができた。さらに、この活性化は、光刺激の条件により活性の程度、持続時間等が変化する可能性が示された。また、本プローブは同時に2つのプローブをバランスよく導入する必要があるが、両者を同等に細胞に導入する方法については課題が挙げられる。 2. Akt分子機能を細胞内でモニタリングするためのプローブ開発も行った。このプローブは、我々が独自に開発した分割ルシフェラーゼ再構成を利用した技術を基盤として設計し、作製した。初年度は、プロトタイプの作製に成功した。これを細胞内に導入し発現させた後にAkt活性化刺激に対するプローブの反応を検討した。細胞実験では、刺激に対する十分な反応性と特異性が得られなかったため、プローブのデザイン段階に戻り、構造の再検討を行っている。 初年度は、光生物学の知識・技術を医学研究に応用し、細胞内分子機能・環境を制御しするためのプローブ作製に関する基礎技術の研究開発を行い、細胞実験によりそれらプローブの機能評価を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、研究の目的に挙げた計画に対しておおむね基づいて研究を進めることができた。 本研究の主軸となる各種プローブの作製に関しては、計画した構造(デザイン)を基にして、いくつかのタイプを本年度内に作製することができた。さらに、それらの細胞への導入と基本的な機能確認段階へと進んで検討を行い、細胞内でのプローブの発現・局在変化の確認、そしてプローブの一部機能性の確認に成功した。プローブ機能の確認実験は現在も継続中であるが、本年度までの結果より、例えばAkt機能制御プローブについては、光の条件がAkt分子の質的・量的活性化に密接に関与する可能性が示唆されるなど、いくつかの重要な事実を見出した。これらの結果が得られたことで、次年度に予定している各々プローブの詳細な(反応、最適)条件等の検討に遅延なく進むことが出来る。 また、本研究で作製し、機能性を検討したプローブの中には、細胞への導入効率(導入比率)や反応性等に新たな課題が見いだされた。このような課題は、研究計画時に想定していたものであるが、当初の計画に従い、プローブデザインの改良、細胞への導入方法の再検討へ一旦立ち戻って、今後の研究の追加検討項目として取り組む予定である。 以上の理由から、本年度の研究の進捗状況はおおむね計画通り進展していると評価した。
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今後の研究の推進方策 |
今後も本研究は、1. Akt分子機能を光により制御するためのプローブ、および2. Akt分子機能を細胞内でモニタリングするためのプローブ、それぞれの完成を目指し、これを基にした新しい細胞療システムの開発を目指す。 1. 前年度からの追加検討項目となったプローブデザインの改良、細胞への導入方法等の検討に取り掛かる。また今後は、プローブの最適な条件の検討へ段階を進める。特に本プローブには、効率よい安定した細胞への導入が大変重要なポイントであると示唆されたため、これについて検討を行い、最適な方法を探し出したい。上述の結果(条件等)を踏まえ、Aktだけでなく、その下流経路のシグナル分子の活性化や遺伝子発現の変化の解析へと段階を進める。これらの解析には、Western blotおよびRT-PCR等を用い、場合によっては、タンパク・遺伝子の網羅的解析方法等など、適した方法により解析する。その次の研究段階では、この分子の活性化制御による、生理機能への影響を細胞レベルで解析する。 2. このプローブも我々のアイデアに基づき作製され、細胞への導入による機能性の検討を行っている。現在、異なるタイプのプローブを複数作製している。これらを用いて、刺激に対する機能性の再検討を進め、反応性の高いプローブを選択、もしくは更なる改良を加える。また、細胞の機能を判定するうえで、Aktだけにとどまらず、他の分子のモニタリングの可能性も考慮し、それら分子の重要性やプローブ作製の際のデザイン等の検討を始めてゆく考えである。 3.最終的には、これらのプローブをともに用いた細胞実験系で、Akt機能を制御するとともに、Akt機能をリアルタイムにモニタリング可能か検討し、生体での使用可能性について検討する。 4.最終的に、小動物実験(細胞・臓器移植実験など)にて、これらプローブの有用性と臨床応用に向けた可能性・問題点を検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
初年度は計画していた通り、プローブの作製を行うことができた。さらに、細胞へのプローブの導入と機能解析についても進めることができ、一部の機能確認をすることができた。このように本年度の研究はおおむね計画通りに進めることができたが、研究を進めるうえで、細胞へのプローブ導入方法の再考察、および、一部プローブのデザイン再検討などの追加検討が必要となった。このため、前年度の間に解決できなかった課題について、研究費を一部、次年度に繰り越し、引き続き追加項目として検討を進めることにしたためである。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度の追加見当項目となった細胞へのプローブ導入方法再検等、またプローブのデザイン改良等については、前年度分の繰越経費を使用して検討を進め、速やかに次年度の研究に移行する。当初の研究計画に基づいた、プローブの細胞レベルでの機能解析および最適条件の検討、他(下流)のシグナルへの影響、そして、生理機能への影響についての解析以降は、該当年度の研究費を利用して研究を遂行する計画である。これらの解析には、Western blotおよびRT-PCRによる解析、場合によっては、タンパク・遺伝子の網羅的解析方法等など、最適な方法を考察の上、選択し、検討を進める。
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