研究実績の概要 |
細胞内のタンパク質分解機構として,ユビキチン・プロテアソーム系およびオートファジー・リソソーム系が存在する。筆者らは,マクロライド系抗生剤のクラリスロマイシン(CAM)のオートファジー阻害活性に着目し,乳癌細胞株において,プロテアソーム阻害剤であるボルテゾミブ(BZ)と同時添加培養することで小胞体(ER)ストレス負荷を介したアポトーシス誘導が増強されることを見出した。CAM単剤では細胞毒性は観察されず,二大タンパク分解機構の同時阻害がERストレス負荷に寄与していると考えられる。ER内の(正常な高次構造にフォールドされない)unfolded proteinはユビキチン化されプロテアソームで分解される一方,細胞質内でアグリソームを形成し,その一部はオートファジーで分解処理される。また,このアグリソーム形成にはヒストン脱アセチル化酵素6((HDAC6)の関与が報告されている。そこで本研究では,HDAC6阻害活性を有するボリノスタット(SAHA)を用いて,ユビキチン・プロテアソーム系およびオートファジー・リソソーム系に加えて,アグリソーム形成を同時に阻害し,ERストレス負荷の増大を試みた。 BZ/CAM/SAHAの3剤同時添加培養により,乳癌細胞株(MDA-MB231,MDA-MB468, BT-474)の全てでアポトーシスによる著しい殺細胞効果が誘導され,その効果は2剤の組み合わせ(BZ/CAM, CAM/SAHA, SAHA/BZ)をはるかに上回った。また,ERストレス関連遺伝子CHOP, GRP78, GADD34の発現が3剤併用で最も強く誘導され,転写因子CHOPの制御下にあるBAX, BIM等のアポトーシス関連タンパク質も上昇した。さらに,CHOPノックアウトマウス由来の線維芽細胞およびCHOPをノックダウンしたMDA-MB231細胞ではBZ/CAM/SAHAによる殺細胞効果が減弱した。 以上より,二大タンパク質分解系に加えてアグリソーム形成を抑制することで,ERストレス負荷を介したアポトーシスが効率的に誘導されることが示唆された。
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