研究課題/領域番号 |
26670591
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
伊 敏 北海道大学, 医学(系)研究科(研究院), 助教 (40292007)
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研究分担者 |
芳賀 早苗 北海道大学, 保健科学研究院, 博士研究員 (60706505)
野田 なつみ 北海道大学, 保健科学研究院, 助教 (30624358)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 再生 / 細胞死 / 昨日維持 / イメージング |
研究実績の概要 |
細胞が積極的に関わる細胞死①アポトーシス、②ネクロプトーシス(プログラムされたネクローシス)、③オートファジーというイベントによる肝の病態・生理における役割を解析しているが、具体的には、通常の肝臓、外科的侵襲後の肝再生(細胞増殖)、虚血・再灌流後に発生する障害等における各々の形態の細胞死(アポトーシス、ネクロプローシス、オートファジー)の発現のタイミング・程度・持続と肝(特に肝傷害、肝再生)に対する病態生理的意義を研究している。本研究では、それぞれの細胞死を生体レベルで動的に解析するための光プローブを作製し、最終的に小動物モデルにおいて検討する。 我々が独自に開発した“分割ルシフェラーゼ再構成”による光イメージング理論を基盤技術として、以下に記す各種光プローブの作製を計画した。i) 細胞増殖能を示すプローブ:肝細胞の増殖能を モニタリングする目的で、リン酸化STAT3(あるいは二量体STAT3に対する光プローブ)をデザイン・作製しているが、なお改善が必要な段階である。ii) 生存能・インスリン抵抗性を示すプローブ:リン酸化Aktに対する光プローブの作製に取り掛かっている。Aktは細胞の生存に対して重要な役割を果たすため、細胞死と生存能の生体内でのバランスを評価する目的で、Akt機能評価用プローブを作製した。プローブは、酸化ストレスなどの種々の反応に対して機能しているが、マウスなど生体への応用のためには、S/N比が十分ではなく、現在改良中である。アポトーシス評価に対しては、Caspase-3活性(アポトーシス)に対する光プローブをデザイン・作製したが、十分なシグナル強度、S/N比が得られマウス実験への応用が可能と考えている。ネクロプトーシスに対する光プローブに関しては、デザインをほぼ終了し、現在作製に取り掛かっている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目的である細胞死に対する光プローブの作製に関しては、初年度に予定したほぼ全ての種類の光プローブに着手し、プロトタイプのプローブをデザイン・作製することが出来た。プローブによっては、生体で使用可能とするために、もう少し時間を要するものもあるが、caspase-3活性化プローブのように生体レベルで十分使用可能と考えられるプローブも完成しており、おおむね満足のいく研究の進捗と考えている。細胞増殖能を示すプローブに関しては、肝細胞の増殖能を示すシグナルであるSTAT3二量体化(活性化)を指標とするプローブのデザイン・作製を行った。これに関しては、十分な反応性が得られておらず、現在再度デザインしなおしている。また、生存能・インスリンシグナルを示すプローブとして、リン酸化Aktに対する光プローブのデザインおよび作製を行った。Aktは細胞の生存に対して重要な役割を果たすため、細胞死と生存能を細胞にて評価した。反応は良好であるが生体での利用にもう少し強度が必要であり、若干改善の余地が残っていると考えられた。アポトーシスによる細胞死の評価に対しては、Caspase-3活性に対する光プローブをデザイン・作製したが、これに関しては十分な反応性と高いS/N比が得られ、ほぼ完成したと考えている。細胞実験により、アポトーシス刺激薬剤、低酸素刺激などでのプローブの良好な反応と生化学的な解析結果とが一致し、生体レベルでの光プローブとして十分使用可能なものと考えられた。ネクロプトーシス評価に対するプローブは、RIP1/RIP3の二量体化に対する光プローブをデザインし作製したが、ほぼ順調に進捗し細胞実験にて評価している。オートファジーに対する光プローブは、p62/SQSTM1とKeap-1との結合を利用したプローブをデザイン・作製する予定であったが、上記STAT3活性化プローブ、Akt活性化プローブ等のデザイン・作製に若干時間を要したため、若干の遅れが生じた。
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今後の研究の推進方策 |
初年度に作製した2つの光プローブのうち、STAT3活性化プローブに関しては、再度デザインしなおし、プローブを再構築する。また、Akt機能プローブに関しては、光プローブのリンカー部分の長さを調整するなどマイナーチェンジを行う。その後、それぞれ細胞レベルで再度評価実験を行う。アポトーシスに対するプローブ(カスパーゼ3活性)に関しては、十分に使用可能であり、マウス実験に移行する。ネクロプトーシス評価に対する光プローブを作製する。RIP1/RIP3の二量体化(あるいはRIP1/RIP3/MLKLの三量体化となる可能性もあり)に対するプローブを作製中し、今後細胞実験にて評価する。iv) オートファジーに対する光プローブを作製する。p62/SQSTM1は、オートファゴソーム膜上に発現しオートファジーのマーカーとなるが、他方Nrf-2活性を制御するためにKeap-1と相互作用する。これを利用して、光プローブをデザインする。あるいは、p62/SQSTM1遺伝子のレポーターを作成して、その発現評価を行う。 1)細胞実験による光プローブの評価を行う。細胞(非腫瘍性肝細胞株:AML12、TIB-73)を用いて、作製したプローブの評価を細胞レベルにて行う。マウス肝細胞株に対してアポトーシス、ネクロプトーシス、オートファジーを誘導する物質・薬剤として、それぞれFasリガンド、ツニカマイシン、ラパマイシンをもちいる。刺激に対して、用量依存的にかつ特異的にプローブからシグナルが発現するか、また生体イメージングに使用可能な十分なS/N比を得られるかどうかを確認する。十分でない場合には、光プローブを再度作製し、生体レベルでのイメージングに使用可能なS/N比を示す光プローブの作製を目指す。また、シグナルの特異性に関しても評価する。 2)生体イメージングに使用可能であることを確認した光プローブに対して、それぞれアデノウイルス等のベクターに組み込んで、マウスを用いた生体イメージング実験を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
初年度に作製した2つの光プローブのうち、STAT3活性化プローブに関しては、十分な反応とシグナルが得られず、プローブを再構築する必要が生じた。Akt機能プローブに関しては、反応強度を高めるために基質と光プローブの間のリンカー部分の長さを調整するなどの調整を行う必要が生じた。これらは十分に克服可能な課題であるが、改良・改善には若干の時間を要する見込みである。それにともない、初年度に行う予定であったネクロプトーシス、オートファジーに対する光プローブのデザイン・作製を次年度に行う予定となった。ネクロプトーシスに対するRIP1/RIP3結合により活性化する光プローブは、次年度も細胞実験を継続し評価する。p62/SQSTM1とKeap-1との結合により活性化する光プローブ、62/SQSTM1遺伝子のレポーター作製は、現在作製中であり次年度も継続する。
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次年度使用額の使用計画 |
本年度繰り越された予算は、以下に記載した研究を推進するために、分子生物学的解析・培養関連試薬、ディスポーザブル等を購入・使用する。次の段階の実験に速やかに移行するために、次年度(H27年度)夏までに使用する予定である。STAT3プローブの再デザイン・再構築のために、またAkt機能プローブの微調整ために、分子生物学的試薬、ディスポーザブル等を購入する。その後細胞実験によりシグナル強度、刺激に対する特異性を再度検討するため、細胞培養関連試薬、刺激用薬剤、ディスポーザブルの購入費用として使用する。また、ネクロプトーシスに対するRIP1/RIP3の二量体化に対するプローブの細胞における評価実験に関しては、分子生物学的試薬、細胞培養試薬、ディスポーザブル等を購入し、オートファジーに対するプローブデザイン・作製に関しても、分子生物学的試薬等を購入する。
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