研究課題
炎症性腸疾患(IBD)長期経過例では大腸癌発生リスクの増加するためサーベイランスの重要性が強調されている。本研究では、患者血液、糞便あるいは生検組織といった低侵襲で繰り返し使用可能な材料を対象とし、その対象に適した方法や遺伝子変化を探索する。まず血液中の遊離DNAを使用した大腸癌検出の可能性に関する検討を行った。対象遺伝子変化としては、血液中に大量に存在し、遺伝子変化定量に際し有利と考えられるLINE1 hypomethylationに注目した。大腸癌患者と健常者とにおける血漿中遊離LINE1 DNAのメチル化レベルを定量し、癌患者識別の可能性を検討した。メチル化レベルはLINE-1遺伝子のpromotor領域を対象に、LINE-1 hypomethylation index (LHI) をunmethylation copy number / methylation + unmethylation copy numberと定義した。大腸癌患者の血漿LHIは健常人より有意な上昇を示した(血漿LHI:0.33 vs 0.37, p< 0.0001)。癌患者スクリーニング検査としての有用性では、血漿LHIは至適カットオフ値0.36、感度67.0%、特異度86.7%、AUC 0.82と計算され、有用性が示唆された。生検組織における大腸癌検出の可能性に関しては、Laser Capture Microdissectionの手技を用いて、正常組織、前癌病変、癌間質組織、癌組織の極小標本より正確でコンタミの少ない抽出を実行し、LHIを検討した。大腸組織においては、前癌状態で既にLHIの有意な上昇を認めた(正常組織: 0.38,前癌病変: 0.49, p<0.05)。組織中のLine1 hypomethylationは腫瘍発生のきわめて早期より生じることが示された。その他の対象となる材料として糞便における遺伝子検出の可能性の検討を行った。糞便を用いたLHIの検討は可能であったが、その臨床応用の可能性に関してはさらなる症例の集積や対象遺伝子のより広範囲な検討が必要と考えられた。LHIの検討は組織や血液におけるスクリーニングでの有用性が期待される。
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