研究課題
非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)に伴う肝再生障害は、肝切除術後の肝不全の発症と密接に関与している。線維化を伴わない単純性脂肪肝においても、肝再生障害が発症しうるという事実は、実際の臨床の場において広く認識されている。このようなNAFLDにおける肝再生障害の危険性が知られる一方で、その病因および治療法については、十分に解明されていない。中枢神経がインスリンや血中栄養素の変化を感知し、迷走神経を介して、糖脂質代謝調節など肝臓機能を制御することが知られている。また、迷走神経切除により、肝再生が遅延するなどの報告から、中枢神経・迷走神経が肝再生に密接に関連する可能性が指摘されている。代表者は、肝再生のマスターレギュレーターである転写因子STAT3が、中枢神経作用の肝臓におけるエフェクターであることを見出している。脂肪肝では、中枢神経・肝臓連関が破たんすることが知られているが、代表者は、脂肪肝での小胞体ストレスが肝STAT3の活性化障害を引き起こすことを明らかにしている。これらの知見は、NAFLDにおける肝再生障害に、中枢神経・迷走神経を介した肝STAT3活性化のメカニズムが関与している可能性を示唆している。本年度には、脂肪肝での肝臓STAT3活性化阻害の原因である小胞体ストレスが、タンパク翻訳因子eIF2αのリン酸化を増加させ、肝再生を阻害する可能性を見出している。さらに、eIF2αリン酸化を減少させるGadd34の活性増強が、脂肪肝での肝切除後肝再生障害を軽減することを明らかにしている。
2: おおむね順調に進展している
本年度の研究計画において、脂肪肝における肝再生障害のメカニズムの解明を行い論文発表を行うなど、おおむね予定通りに順調に進展している。次年度に向けて、中枢神経・肝臓連関と肝再生・肝臓ストレスとの関連の研究にも着手しており、次年度に引き続きその解析を行うことを予定であり、当初の計画に沿って順調に研究が進展している。
今後、中枢神経・肝臓連関と肝再生・肝臓ストレスの関連について、検討を進めていく。具体的には、中枢神経・肝臓連関のメカニズムとその制御を解明し、そのメカニズムと小胞体ストレス・肝再生障害との関連、特に肝臓STAT3および迷走神経の重要性について検討を進めていく予定である。
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すべて 雑誌論文 (6件) (うち査読あり 6件、 謝辞記載あり 2件) 学会発表 (2件) 備考 (1件)
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