研究課題
EGFR抗体薬などの分子標的薬の登場で進行大腸癌の治療成績が向上しているが、人によって薬剤に対する感受性に違いがあること、耐性化が起こることが問題となっており、薬効予測やモニタリングのためのマーカーが求められている。現在、EGFR抗体薬の効果予測はKRAS遺伝子検査で行われているが、著効例は半数に満たない。本研究では、①分子標的薬の直接のターゲットであるタンパク質、特に細胞内の主要キナーゼなどのリン酸化タンパク質を一斉定量する系を薬効予測マーカー定量系として構築し、②大腸癌初代培養CTOSを用いてEGFR抗体薬の効果予測に有用なマーカーを絞り込む。リン酸化タンパク質に着目した薬効予測マーカー探索は斬新である。また、CTOSは、vivoの状態をよく反映するため、通常の培養細胞を用いた解析では得られない有用なマーカーが発見できる。平成26年度は、より多くの細胞内リン酸化タンパク質・リン酸化ペプチドの定量を目指して、前処理法の改良を行った。具体的には、リン酸化ペプチドの濃縮に、IMAC法と抗チロシン抗体を用いた免疫沈降法を併用することで、チロシンリン酸化ペプチドの同定率を上げた。また、リン酸化ペプチド濃縮後の分画法を、HPLCの代わりにイエローチップを用いた簡易分画法を開発した。この改良により、細胞内シグナルパスウェイの主要リン酸化タンパク質の一斉定量系を構築した。上記の手法を用いてEGFR抗体薬処理後に経時的に変化する大腸癌細胞中のリン酸化タンパク質およびそのリン酸化サイトの網羅的比較定量を行った。同時に、上記の解析をEGFR抗体薬に対する感受性株と耐性株においても行い、感受性株群と耐性株群で差のあるリン酸化タンパク質の解析を行った。さらに、大腸癌組織からの初代培養細胞の樹立も行った。通常の平面培養細胞に加え、三次元培養細胞のCTOSやオルガノイドの作製も行った。
2: おおむね順調に進展している
当初の計画1.ターゲット定量プロテオミクスを用いた細胞内シグナルパスウェイの主要リン酸化タンパク質一斉定量系構築に関しては、ターゲット定量プロテオミクスのSRM/MRM法による細胞内リン酸化タンパク質の定量解析が予想に反して難易度が高かったため、安定同位体標識TMT10を用いたショットガンリン酸化プロテオミクスの手法で解析を進め、培養細胞から常時約15,000種類のリン酸化ペプチドの定量、また約500種類のチロシンリン酸化ペプチドの定量ができる系を確立した。当初の計画2.EGFR抗体薬処理によって変動するリン酸化シグナルタンパク質の網羅的解析に関しては、上記の手法を用いて、大腸癌細胞株のセツキシマブ処理後のリン酸化タンパク質の定量を行った。その結果、薬剤処理により、各薬剤のターゲットとして知られているリン酸化タンパク質の低下が認められただけでなく、未知のリン酸化タンパク質も変化することが確認された。当初の計画3.上記2と同時に、感受性株群と耐性株群でセツキシマブ処理前後で違いのあるリン酸化タンパク質の解析を行った。現在薬剤感受性マーカーとなりうるリン酸化タンパク質の候補の絞込みを行っている。当初の計画4.研究協力者である大阪府立成人病センターの井上博士と共同で、大腸癌組織からのCTOS細胞の樹立も行った。現在まで約20株ほど作製に成功している。同時に、がん研究会と共同で、大腸癌組織からの平面培養細胞及びオルガノイド細胞の作製の準備中である。
1.大腸癌初代培養細胞(平面培養、三次元培養)を用いたEGFR抗体薬の薬効予測マーカーの絞り込み昨年度までに樹立した大腸癌CTOS細胞及び今年度作製予定の大腸癌組織からの平面培養細胞を用いて、EGFR抗体薬感受性試験を行い、感受性株と耐性株に分類する。それらの細胞を材料として、上記のショットガンリン酸化プロテオミクスを用いた薬効予測マーカーの探索を行う。細胞内増殖シグナルの伝達には、キナーゼによるリン酸化が重要な役割を担っており、現在抗がん剤として用いられている分子標的薬の多くはキナーゼ阻害剤である。従って、分子標的薬の薬効を予測するためには、薬のターゲットとなるキナーゼ活性をモニタリングすることが重要である。今年度は、EGFR抗体薬感受性株と耐性株間で変動するリン酸化ペプチド(基質)の情報からキナーゼ活性を予測し、感受性株と耐性株間で違いのあるキナーゼが薬効予測マーカーとならないか検討する。2.EGFR抗体薬効予測マーカーの機能的検証上記の解析で候補に挙がったマーカータンパク質が薬効に関わっているかを、そのターゲットのキナーゼの阻害剤やsiRNAを用いて検証する。上記の研究で得られた結果を取りまとめて、論文投稿、学会発表を行う。
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すべて 雑誌論文 (4件) (うち査読あり 4件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (8件) (うち招待講演 6件)
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