研究課題/領域番号 |
26670616
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
澤 芳樹 大阪大学, 医学(系)研究科(研究院), 教授 (00243220)
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研究分担者 |
今西 悠基子 大阪大学, 薬学研究科(研究院), 特任助教 (10707582)
寒川 延子 大阪大学, 医学(系)研究科(研究院), 研究員 (30432579)
福嶌 五月 大阪大学, 医学(系)研究科(研究院), 助教 (80596867)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 心不全 |
研究実績の概要 |
国内虚血性心筋症の中で、広範に及ぶ心筋梗塞、複雑病変や多枝病変を有し、左室駆出率(LVEF)が40%以下である重症心不全に対する治療法として冠動脈バイパス術が施行されているが、心臓虚血部への完全な血流回復は困難な場合が多い。これらの心臓虚血部への血流回復・心筋再生を目指した心血管・心筋再生療法の開発は喫緊の課題である。 我々は重症心不全患者に対して、自己筋芽細胞シート移植を行ってきたが、本作用は細胞分泌される多様な体内再生因子が血管新生効果等を増強していることを確認している。 ONO-1301は、細胞に作用して多様な体内再生因子を持続的に分泌し、細胞療法と同じ役割を果たす点、及びONO-1301の徐放性マイクロスフェアー製剤(YS-1402)の開発において独創的であり、YS-1402を用いた汎用性及び緊急使用可能な心血管・心筋再生療法剤は、新しい治療概念になりうると考えている。近々、YS-1402シート製剤を心臓に貼付投与する方法にて医師主導治験の実施を計画している。 今回、新たにONO-1301の新しいDDS製剤としてONO-1301ナノスフェアー(NS)製剤を作製し、低侵襲で汎用性が高い投与法による疾患特異的治療法を開発することを目的とする。 平均粒子径約100nmのONO-1301NS試作品を作製した(特許出願準備中)。 ラットモノクロタリン(MCT)誘発重症心不全(肺高血圧症)モデルを用いて、モデル作製7日後より各種製剤を投与し42日後の延命効果を比較検討した。尚、陽性対照としてET-1拮抗剤であるボセンタンを用いた。その結果、ONO-1301の3 mg/kgの1日2回反復経口投与およびONO-1301NS製剤の1 mg/kgの週1回の間歇静注投与においては、いずれも最終生存率は50 %であり、対照群と比較して有意な延命効果が確認された。ONO-1301の総投与量として1/42投与量において同等な延命効果を示したことにより、ONO-1301NS製剤でのDDS効果が確認された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ラットモノクロタリン(MCT)誘発重症心不全(肺高血圧症)モデルを用いてONO-1301原薬と比較し、ONO-1301NS製剤のDDS効果を検証した。ラットにMCTを単回皮下投与により誘発させた重症心不全モデルを用いて、モデル作製7日後より各種製剤を投与し42日までの延命効果を比較検討した。 群構成は、1群(媒体)、2群(ONO-1301;3mg/kgx2回/日、経口投与)、3群(ボセンタン;50mg/kg/2回/日、経口投与)、4群(ONO-1301NS;1mg/kg/週、静注投与)、及び5群(ONO-1301原薬;1mg/kg/週、静注投与)で実施した。 その結果、陽性対照として用いたET-1拮抗剤であるボセンタンは肺高血圧治療剤として臨床的に使用されており、同ラットMCT誘発心不全モデルにおいて有効性を確認している(Circ J 2013)が、これらはMCT投与直後からの反復経口投与である。今回、(3群)MCT投与7日後からの投与においては、有意な延命効果が確認出来なかった。一方、ONO-1301の3 mg/kg(2群)の1日2回反復投与およびONO-1301NS剤の1 mg/kg(4群)の週1回の間歇静注投与での最終生存率は共に50 %であり、対照群(1群)と比較して共に有意な生存率延命効果が確認された。 ONO-1301NS剤(4群)はONO-1301反復経口投与群(2群)に比し、ONO-1301の総投与量として1/42投与量において、同等な延命効果を示すことにより、NS製剤でのDDS効果が確認された。尚、5群;ONO-1301(1mg/kg/週)は有意な生存率延命効果は示さなかった。 これらの結果から、ONO-1301NS製剤は、ONO-1301原薬に比し、DDS効果により肺動脈壁のリーバースリモデリング作用および肺胞内の血管新生を促進することにより右心不全を抑制し、生存率を延長させることが示唆された。
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今後の研究の推進方策 |
今後、ONO-1301NS製剤試作品を幾つかの方法で作製し、安定性、収率、平均粒子径、凍結乾燥品、大量GMP製剤製造法等から臨床製剤化を検討する。また、薬効薬理試験として、ラット冠動脈完全虚血モデル、ラット冠動脈虚血再灌流モデル、および自然発症拡張型心筋症(J2N-k)ハムスターモデル等を用いて、ONO-1301全身投与(経口投与及び静注投与)との比較により、DDS効果を検証する。 また、同様の方法で作製した蛍光物質や鉄又は金コロイドを含有するNS製剤を用いて、疾患特異的なNS製剤の集積、及び細胞内取り込み(エンドサイトーシス)について、in vivo/in vitroにて検討を行う。 ONO-1301は、当初トロンボキサン(TX)A2合成酵素阻害作用を併せ持つプロスタグランジン(PG)I2受容体アゴニストとして見出され、小野薬品により経口抗血栓剤として開発されたが、副作用(下痢等)と有効性の乖離が狭いことにより開発が中止されていた。 我々は、ONO-1301の新しい薬理作用として、より低用量にて各種の体内再生因子を産生促進することから、新しい適応症見出した。また、YS-1402やONO-1301NSの様な新しい製剤改良により、新しい臨床応用の可能性を提案している(ドラッグリポジショニング)。ONO-1301は持続的に様々な体内再生因子を産生促進することから、重症心疾患だけでなく、難治性の呼吸器疾患、神経変性疾患、腎疾患、虚血性疾患、肝疾患、膵疾患等々の疾患モデルにも効果を発揮している。 ONO-1301NS製剤は、心移植に代わり重症心不全患者を救済することが可能となり、医療経済へも貢献し、わが国発の基礎的研究成果の社会還元にむけた一層の加速ならびに、弱体化した創薬事業における国際競争力の強化に資するものである。また、ONO-1301NS製剤は、低侵襲で汎用性が高い投与法による疾患特異的治療法として開発することが可能となり、再生創薬の旗頭になるもとの思われる。
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