本研究では、病原微生物が炎症性腹部大動脈瘤の原因であるという独自の斬新な仮説を実証する。そのため、以下の3つの計画を実施した。 【計画Ⅰ. 次世代シーケンサーを用いたヒト炎症性腹部大動脈瘤病変組織中の病原体探索】平成27年度は、平成26年度に引き続いてヒト大動脈組織標本を採取し、微生物ゲノム解析用に凍結保存した。今後も継続して標本採取を行い、各群5例の標本収集後に、次世代シーケンサーを用いてヒト病変組織中の病原微生物を探索する計画である。 【計画Ⅱ. 病原体抽出物を用いた炎症性腹部大動脈瘤のマウスモデル確立】平成26年度にカンジダ・アルビカンス菌体抽出物を4週齢雄マウスの腹腔内に繰返し投与したところ、腹部大動脈瘤の形成が確認された。組織学的解析を行い、マクロファージを含む著明な炎症細胞浸潤が全層性にみられた。中膜と外膜は線維性に著明な肥厚を呈し、中膜の弾性線維は破壊され減少していた。これらはヒトの炎症性腹部大動脈瘤と良く似た所見であった。 【計画Ⅲ. マウスモデルを用いた炎症性腹部大動脈瘤発症メカニズムの解明】計画Ⅱで確立した炎症性大動脈瘤マウスモデルを用いて、炎症性腹部大動脈瘤における炎症性シグナル分子JNKの役割を明らかにすることにした。計画Ⅱと同様の方法で炎症性大動脈瘤マウスモデルを作製した。JNK 阻害剤SP600125 の徐放製剤を皮下投与して持続的なJNK 活性の抑制を行った。対照マウスにはプラセボ製剤を投与した。平成27年度はモデル作製まで終了した。今後、瘤発症頻度、瘤径、組織所見、を対照と比較し、炎症性大動脈瘤発症におけるJNK の役割を明らかにする計画である。
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