いわゆる炎症性腹部大動脈瘤では、通常の動脈瘤と同様の破裂死防止という治療目的のみならず、腹痛等の症状改善や水腎症等の合併症への対応も治療に求められる。それゆえ、病因・病態機序を解明し、新たな治療選択肢を開発することは急務である。本研究では、病原微生物が炎症性腹部大動脈瘤の原因であるという独自の斬新な仮説を実証する。そのために、以下の実験を実施した。 【病原体抽出物を用いた炎症性腹部大動脈瘤のマウスモデル確立】平成26年度にカンジダ・アルビカンス菌体抽出物を4週齢雄マウスの腹腔内に繰り返し投与したところ。腹部大動脈瘤の形成が確認された。平成27年度に組織学的に解析を行い、マクロファージを含む著明な炎症細胞浸潤が全層性にみられた。中膜と外膜は線維性に著明な肥厚を呈し、中膜の弾性線維は破壊され減少していた。 【マウスモデルを用いた炎症性腹部大動脈瘤発症メカニズムの解明】炎症性腹部大動脈瘤におけるシグナル分子JNKの役割を明らかにするために、平成27年度に、上述の実験で確立した炎症性大動脈瘤マウスモデルを作製し、JNK阻害剤SP600125の徐放製剤を皮下投与して持続的なJNK抑制を行った。対照マウスにはプラセボを投与した。平成28年度に実験マウスの解析を行い、対照マウスと比較してJNK阻害マウスの瘤発生頻度、瘤径は有意に低値であった。さらに、組織学的解析の結果、炎症細胞浸潤と中膜弾性線維破壊の程度は、対照マウスよりもJNK阻害マウスの血管壁で軽度であった。 これらの結果から、病原微生物の菌体成分がJNKシグナルを介して大動脈壁の炎症を惹起し、大動脈瘤形成を誘導する可能性が示された。
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