研究課題
大動脈解離の病態には不明な点が多いが、大動脈壁へのストレスとストレス応答のインバランスが病態の基本と考えている。大動脈のストレス応答を血管平滑筋細胞が担っており、その中心的な分子としてMRTF-Aが重要な役割を果たすとの仮説で研究を進めた。血管平滑筋細胞に機械的あるいは液性因子ストレスが加わった場合、最初に変化するのはアクチン細胞骨格であり、MRTF-Aはアクチン細胞骨格のダイナミックスで制御される転写共役因子である。まず、解離の時間経過を観察するモデルとして、コラーゲン・エラスチン架橋酵素阻害薬であるベータアミノプロピオニトリル(BAPN)とアンジオテンシンIIを同時に持続投与するモデルを開発した(BAPN+AngIIモデル)。2週間の経過で解離が発症し進行するモデルである。血管へのストレスとしてアンジオテンシンIIを投与し、MRTF-Aの発現をmRNAおよびタンパクレベルで解析した。アンジオテンシンII投与によりMRTF-AのmRNAレベルは変化しなかったが、蛍光免疫染色では大動脈壁中膜平滑筋細胞のMRTF-Aは非常に強く誘導され、核に局在することが示された。このことから、血管壁へのストレスは翻訳後レベルでMRTF-Aを制御していることが示唆された。アンジオテンシンII負荷が、既知のMRTF-A標的遺伝子(ACTA2, CCN1, MHC11, TNC)の発現に及ぼす影響を検討した。アンジオテンシンII投与はCCN1およびTNCの発現を著明に誘導し、ACTA2およびMHC11の発現を軽度低下させた。MRTF-A阻害薬CCG203971は、CCN1の発現をほぼ完全に抑制し、TNCの発現を軽度抑制した。
2: おおむね順調に進展している
本研究の目的は、大動脈解離の病態において大動脈壁のストレス応答機構が果たす役割を解明することである。これまでの研究から、大動脈壁ストレス(アンジオテンシンII負荷)が血管平滑筋細胞のMRTF-A発現レベルを翻訳後レベルで制御していることを強く示唆する実験結果を得た。また、ストレスによる遺伝子発現制御にMRTF-Aが関与することも明らかにした。同時に、MRTF-Aの役割を検証する実験システムとして、コラーゲン・エラスチン架橋酵素阻害薬BAPNとアンジオテンシンIIを同時に持続投与するモデル(BAPN+AngIIモデル)を開発した。再現性良く解離を発症し、比較的時間をかけて病態が進行するため、分子的解析や介入が可能なモデルである。このようなモデルは大動脈壁ストレス応答を分子レベルで解明するのに必須であり、その開発は本研究の遂行に大きく寄与する。さらに、BAPN+AngIIモデルで発症する大動脈解離を定量的に評価する手法を確立した。解離病変を数値的に定義し、病変長から解離重症度を測定する手法である。この評価法開発により、MRTF-Aの役割を部位特異的かつ定量的に評価することが可能になった。
今後は、MRTF-Aが解離において果たす役割を明らかにするために、大動脈解離モデル(BAPN+AngIIモデル)にMRTF-A阻害薬CCG203971を投与し、その効果を定量的に解析する。大動脈壁のストレスおよびストレス応答は部位により異なる可能性が高い。この点に着眼し、部位特異的かつ定量的な大動脈解離の重症度評価方法によりMRTF-Aの役割を明らかにする。MRTF-AノックアウトマウスでBAPN+AngIIモデルを作成し、野生型と比較することでMRTF-Aの役割を遺伝学的に明らかにする。ヒト大動脈解離組織でMRTF-Aの発現、MRTF-A標的分子の発現、および解離病態で重要な役割を果たす炎症シグナル分子や細胞外マトリックスの発現を解析し、相互の量的・空間的な関連を明らかにする。血管平滑筋細胞の伸展培養において、MRTF-Aによる遺伝子発現制御ネットワークを明らかにし、大動脈壁ストレス応答におけるMRTF-Aの役割を明らかにする。
ほぼ予定通りの使用状況であるが、MRTF-A阻害薬のバルク購入による割引等で次年度使用額15,007円が生じた。
次年度繰越金は測定試薬の購入に充てる予定である。
すべて 2015 2014
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