研究課題/領域番号 |
26670623
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研究機関 | 独立行政法人国立循環器病研究センター |
研究代表者 |
中谷 武嗣 独立行政法人国立循環器病研究センター, 病院, 部長 (60155752)
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研究分担者 |
柿木 佐知朗 独立行政法人国立循環器病研究センター, 研究所, 研究員 (70421419)
山岡 哲二 独立行政法人国立循環器病研究センター, 研究所, 部長 (50243126)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 心筋梗塞 / ゲル治療 / アルギン酸 / ポリ乳酸 / ポリグリコール酸 / ミセル |
研究実績の概要 |
心疾患は補助人工心臓や心臓移植を根治療法としてきた。近年、細胞移植による再生医療の臨床例が報じられたが、そのリスク管理は容易ではない。また、力学的サポートを原理とするバチスタ手術も魅力的ではあるが、やはりリスクが指摘されている。最近、アルギン酸ゲルを注入することで心筋離モデリングが誘発されるという観察が報告され、新たな心筋症治療として注目されている(Circulation, March 18, 2008)。リモデリング抑制に至る詳細なメカニズムは解明されていないが、組織強度の保持と、組織細胞との接着性や炎症誘導などの作用が重要と考えられる。しかしながら、これを実証するためには、化学組成が類似であって広範囲に性質を代えられるインジェクタブルゲルが有用である。我々は、ポリ乳酸(PLA)とポリエチレングリコール(PEG)のみからなる物理架橋型インジェクタブルゲルを世界に先駆けて完成させた。(Macromol. Biosci., (2001))。本ハイドロゲルは、その組成と分子量を変化させることで、ゲル化時間、親水疎水性、細胞親和性、分解特性、炎症誘導性を大きく変化させることが可能である。 PEGとポリD乳酸(PDLA)またはポリL乳酸(PLLA)からなるマルチブロックポリマーを合成し、ハイドロゲルのレオロジー特性を評価した。さらに心筋梗塞モデルラットへ注入したときの心筋梗塞の治療効果について超音波エコー・免疫染色による組織学的評価により検討した。その結果、PEGとP(DL)LAからなるマルチブロックポリマーは、生理的条件下で容易にハイドロゲルを形成し、また、その強度は従来型のものより有為に大きく、心筋組織のサポートに有用であった。ラットの心筋梗塞部位への注入により心機能改善が認められ、次年度には更に詳細な検討を進める。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
PLLA-PEG-PLLAとPDLA-PEG-PDLAの平均分子量は6000Daであった。(PLLA-PEG-PLLA)mと(PDLA–PEG-PDLA)mの平均分子量はそれぞれ25000Da (Mw/Mn=1.14)と26000Da(Mw/Mn =1.15)であり、いずれもトリブロックのセグメントが4-5回程度含まれていることになる。L体およびD体の分散液のみではトリブロックとマルチブロックともに40℃ではゲル化しなかった。一方、LとD体を混合することでトリブロックおよび、マルチブロックの分散液はゲル化した。このことはこれまでの組成では達成できなかったゲル化挙動であり大きな伸展と考えている。 トリブロックコポリマーからなるハイドロゲル(10wt%)の貯蔵弾性率は37℃では60分後に0.4kPaであったのに対して、同一濃度で作製したマルチブロックのハイドロゲルは1.9kPaであり、セグメントの繰り返すことで貯蔵弾性率が約5倍上昇した。また、マルチブロックすばやくゲル化したのに対してトリブロックのハイドロゲルは約3分でゲル化点が見られた。これらの特性により、ラット心筋梗塞治療モデルにおける%FSの改善率は有為に高く,その有効性が認められた。さらに、力学強度の異なるハイドロゲルを注入する治療実験に進むことで本治療法のメカニズムを解明で切れば大きな知見になると期待される。 このように、計画していたゲルの高強度化に成功し、ゲル化時間短縮についてはほ予定取りに進捗したと自己評価している。更に詳細な検討を進めるために、更なる高強度ゲルの開発にも挑戦したが、初年度には達成することが出来なかったので、次年度にもちこすこととした。
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今後の研究の推進方策 |
ラット心筋梗塞モデル作成、ゲル化材料(20μL×5カ所)注入、所定期間後の心機能解析、および、組織切片評価については初年度と同様に実施する。拍出量20%以下を目指した場合、半数程度のラットが死亡するという状況であり、さらに、ゲル移植の困難さから、最終的には20%程度が評価に値するであるという状況であるので、手技の改善を図る。 27年度には、ラットモデルでのモデル作成効率などの低さが改善できなければ、ウサギモデルへの適応も視野に入れて進める。初年度の検討で、ポリ乳酸系ハイドロゲルの炎症誘発性が従来のアルギン酸床となることが明らかとなったことから、ハイドロゲルの生体内における分解挙動と細胞親和性を評価する必要がある。ゲル上で免疫担当細胞を培養して活性を測定するin vitro 実験と、モデル動物への移植実験の後に、炎症性サイトカインの発現量や炎症性血管新生の有無を評価するin vivo 炎症誘発性を検討する。 ゲル注入による心機能改善性が担保されたならば、27年度の後半に於いては、本インジェクタブルゲルに骨髄由来あるいは脂肪組織由来の間葉系幹細胞(Mesenchymal Stem Cell)などの心筋改善効果が報告されている細胞を搭載し、同様にインジェクトする予備的検討を完了する予定である。我々の材料はPLA樹脂とPEGという生体内での使用が認可されているものからなる低毒性材料であり、さらに、強度などの特性を構造的に制御できることから、機能細胞の注入、その後のゲル化による機能細胞の正着を大きくサポートできると期待でき、離モデリング抑制効果のみならず、心筋組織再生への有力なシステムとして期待している。
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次年度使用額が生じた理由 |
消耗品を予定よりも安く購入できた為。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度購入の消耗品に充当する。
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