自己複製能・腫瘍創始能といったがん幹細胞を特徴付ける形質を喪失させる手法の開発はがん根治実現のカギを握ると考えられるが、こういったがん幹細胞に特徴的な形質が如何なる機序で維持されているかはいまだ不明な点が多い。これに対して我々は「がん幹細胞の糖代謝活性が幹細胞形質維持調節に重要な役割を担っている」という新たな仮説を着想した。本課題はこの仮説を膠芽腫をモデルに実証する傍ら、がん幹細胞糖代謝標的治療を、膠芽腫幹細胞分化誘導法やbulk tumor control(非幹細胞制御)法等と理論的に組み合わせることによって膠芽腫根治の前臨床モデルを創出することを最終的な目標として行った。具体的にはまず最初にin vitroにおける解糖経路阻害が膠芽腫がん幹細胞の諸特性に与える影響を検討するとともに、in vivo における解糖経路阻害が実際に膠芽腫がん幹細胞による腫瘍形成を抑制しうるか検討した。その結果、解糖経路阻害がin vitroで膠芽腫がん幹細胞の諸特性を抑制するとともに、in vivoでも膠芽腫がん幹細胞による腫瘍形成を抑制することが明らかとなった。さらに我々は、このような解糖経路阻害により幹細胞性が失われる機序について検討を行ったところ、解糖経路阻害により細胞内ROSレベルの上昇が誘導され、これが幹細胞性を抑制している可能性を示唆する結果が得られた。
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