神経障害性疼痛は発症機序が非常に複雑でいまだに根本的な治療方法が開発されていないことが臨床上の重大な問題となっている。有効な治療薬を開発する為には、神経障害性疼痛の発症・維持に関わる分子メカニズムを明らかにし、新規標的分子を同定する必要がある。特に疼痛発症の主な原因箇所である、脊髄後角内での現象および機構を明らかにすることは、疼痛治療薬の開発のために非常に重要である。我々は神経障害性疼痛に関与する因子として、ネトリン(Netrin)に着目した。ネトリンは細胞外基質ラミニンに類似した構造を持っている分泌タンパク質である。過去の知見から、ネトリンは発生・発達期の軸索ガイダンス、細胞移動、細胞生存、神経突起形成、シナプス形成に関与していることが報告されているが、成体脳における役割はほとんど明らかになっていない。我々はネトリンファミリーの一つであるNetrin-4が疼痛発症に関与していることを見いだした。Netrin-4は成体脊髄において後角2層内側に局在する介在神経細胞に発現していた。Netrin-4遺伝子が欠損した動物の痛覚刺激に対する応答について検討したところ、神経障害性疼痛および炎症性疼痛が引き起こされないことを見いだした。またNetrin-4 siRNAを脊髄髄腔内に投与した実験でも同様の傾向が見られた。一方で、脊髄髄腔内にNetrin-4タンパク質を投与すると、動物は痛覚過敏を示した。以上の結果より、脊髄後角の神経細胞に発現するNetrin-4は、脊髄後角内において疼痛を惹起する因子であることが示された。
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