研究課題
本研究課題の平成27年度までの研究から,wall shear stress(WSS)の多方向性の時間的変動(乱れ)によって特徴付けられる量と脳動脈瘤の発生との相関を示唆する結果が得られた。そこで瘤の初期発生段階に加えて,平成28年度は,瘤のより広い段階におけるWSSの役割を調べることを目的として研究を進めた。UCAS Japanの大規模な観察研究により,脳動脈瘤の破裂率は瘤の形成部位や大きさによって有意に異なることが報告されている。この報告を一つの足掛かりとして,本研究課題では合計90症例に対する血流解析を行い,異なる形成部位あるいは異なる大きさのグループの間でWSSなどの血行力学量を比較し,瘤の破裂率の傾向との相関を調べた。この90症例の内訳は,形成部位による分類では前交通動脈瘤45症例と中大脳動脈瘤45症例,また大きさによる分類では長径5 mm以上が55症例で長径5 mm未満が35症例であった。各症例のCT画像から瘤を含む脳血管形状を抽出し,計算流体力学解析(血流解析)を行うための形状を作成した。また,あらかじめ計測しておいた各症例の収縮期および拡張期の血流量に基づいて拍動波形を仮定し,拍動を考慮した血流解析の境界条件として用いた。形成部位による比較ではWSSの大きさに関して有意差が認められ,破裂率がより高い前交通動脈瘤でWSSの大きさがより低値であった。WSSの時間的な乱れに関しては有意差が認められなかったものの,その平均値は前交通動脈瘤でより高値であった。瘤の大きさによる比較では,WSSの大きさだけでなく時間的な乱れに関しても有意差が認められた。破裂率がより高い長径5 mm以上のグループでWSSの大きさがより低値で,かつ時間的な乱れがより強く生じていた。以上から,WSSの大きさと時間的な乱れに関して,破裂率の傾向との一定の相関が見られた。
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Acta Neuropathologica Communications
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