悪性神経膠腫に対する標準治療薬temozolomide(TMZ)は、耐性例も少なからず存在しており、その治療効果は十分とは言えない。TMZの抗腫瘍効果はグアニンO6位のアルキル化によるDNA障害で発揮され、同部位の脱アルキル化酵素O6-methylguanine-DNA methyltransferase (MGMT)によってその効果は減弱される。すなわち、有効なMGMT阻害剤があれば、標準治療におけるTMZ耐性神経膠腫の治療成績向上につながる可能性が示唆される。一方、computational drug designによるin silico創薬は、化学的構造をベースにした理論的プロセスを経ることで、効率的かつ高い成功率で最適化合物の分子設計を可能にする。そこで我々は、in silico創薬手法を用いて、化合物ライブラリーから新規MGMT特異的阻害剤の創製することを目的に本研究を行った。平成27年度までの研究で、1) MGMT活性中心に結合能を有する阻害剤候補化合物を検索し、2) 候補化合物のヒトglioma cell lineにおける薬理効果をin vitroで検証した。一方、in vivoでの薬理効果を検証する目的で、3) ヌードマウス皮下腫瘍モデルの実験系を確立した。平成28年度では、TMZとの併用でT98G細胞に対するより強い抗腫瘍効果を発揮したパパべリン塩酸塩に着目し、WST法・コロニー形成法・トリパンブルー色素排除法を用いて評価し、TMZと同等以上の増殖抑制効果とTMZ併用における相加効果を確認した。またマウス皮下腫瘍モデルにおいてパパべリン塩酸塩を1日2回4日間腹腔内投与し、その体重と腫瘍径を測定したところ、パパべリン投与群はコントロール群と比較しても体重減少の毒性はなくかつ腫瘍増殖が抑制されており、in vivoでの抗腫瘍効果が確認された。
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