椎間板組織の中核を成す椎間板細胞は、非増殖細胞である心筋細胞に似ており、終末分化した状態に近くその細胞増殖能は低い。また角膜組織と同様に、中心部は無血管野で周囲からの拡散により栄養状態を維持しているといった特殊な組織でもあり、その細胞増殖・維持機構は不明である。申請者らはまず、栄養飢餓により惹起される椎間板細胞の変性変化に関与する遺伝子群をマイクロアレイにより網羅的に探索した。その結果、細胞周期関連遺伝子のDNA damage checkpointに属する遺伝子群に有意な変動がみられ、今後のさらなる病態解析の標的となり得ることが示唆された。本研究ではさらに、これら細胞周期関連遺伝子群の椎間板変性における機能解析を進め、その細胞増殖・細胞周期制御機構を明らかにすることを目的とした。 ヒト正常髄核細胞を単離継代し血清飢餓を行うと、caspase 3おょびp27遺伝発言がタンパクレベルで有意に変動することが確認されたため、caspase 3およびp27遺伝子に着目してin vivoレベルでの実験を行った。すなわち、caspase 3とp27遺伝子に対しKOマウスを作製し、椎間板組織における表現型解析を行なうこととした。 その前段階として、野生型マウスを用いて椎間板変性モデルの作製と、椎間板変性に対する独自の病理所見評価法を確立した。その結果、再現性の高いマウス椎間板変性モデルの作製が可能となった。 さらに椎間板穿刺変性モデルによる野生型とcaspase 3KOマウスの比較では、穿刺初期にcaspase 3KOマウスにおいて変性変化の遅延がみられ、同様のp27KOマウスについても同様の結果が得られた。 この結果から、これら細胞周期関連遺伝子群を対象とした椎間板変性制御の可能性が示された。
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