麻酔薬は医療で日常的に使用され私達はその恩恵を十分受けている。しかし、その作用機序はまだ十分に解明されていないのが現状である。数ある麻酔薬の中で、吸入麻酔薬はその作用機序として薬が細胞膜に溶け込み、膜の側方圧を変化させることによってイオンチャネルのゲート開閉に影響を与えているとする脂質仮説が有力視されているが、これまでに確認する方法がない状態だった。 本実験の目的は、この脂質仮説を検証することであった。当初予定していたリポソームパッチ法による膜張力の測定は困難であったため、所属研究室で確立された脂質バブル法を使用して実験することとした。この方法は、オイル内で脂質懸濁液から脂質一重膜からなるバブルを作成し、向かい合う二つのバブルを接触させ二重膜を形成させる方法(二つのシャボン玉を接触させるように)である。利点として、バブルの大きさを自由に設定できることであり、これを利用して形成されたバブルの曲率半径から張力を求めようと計画した。ところが、この方法は時間が経つにつれてバブル内の脂質二重膜に脂質懸濁液由来の脂質が次々に組み込まれてしまうということがあきらかとなった。そのため、一定の分子からなる脂質平面ではなく、分子数が増えることで脂質面積が大きくなってしまう。求めた曲率から算出される張力は正しい値ではないことが明らかとなった。そこで、膜の組成を変えることによって膜張力がどのように代わるのかどうか検証し、測定方法を確立することができた。
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