痛みを感知・伝達する末梢神経はポリモーダルであり、1本の神経で機械刺激・熱刺激・化学刺激など複数の痛み刺激を感知すると考えられてきた。最近、異なる痛み刺激は異なる末梢神経を活性化させ、伝達される可能性が示唆されている(labeled line theory)。本研究では、各種痛みモデルでlabeled line theoryを検証し、分子ではなく特定の神経線維をターゲットする全く新たな鎮痛法開発を目的とした。平成26年度は、選択末梢神経脱落マウスの作成とその評価を行った。雄性C57BL/6(5-6週齢)を使用した。無髄神経はペプチド含有神経と非含有神経に分類される。ペプチド非含有無髄神経のマーカーはIB4であり、神経毒であるサポリンをIB4と結合させたIB4サポリンを投与することにより選択的に脱落させることとができる。さらに、ペプチド含有無髄神経の中にはTRPV1陽性神経が含まれ、カプサイシン投与によって選択的に脱落させることができる。これらの神経毒投与10日後に、脊髄標本を作製し、免疫組織学的に神経毒の効果を検討した。その結果、サポリンをIB4とカプサイシン投与により選択的に、IB4陽性神経もしくはTRPV1陽性神経を脱落することが明らかとなった。投与10日間後に運動機能試験、熱および機械刺激に対する逃避潜時と逃避閾値を測定した。IB4陽性神経脱落マウスでは運動機能試験、熱および機械刺激に対する逃避潜時と逃避閾値に影響はなかったが、TRPV1陽性神経脱落マウスでは熱に対する逃避潜時が著明に延長することが明らかとなった。さらに、炎症痛みモデルマウスを用いて、IB4陽性神経とTRPV1陽性神経の病的な痛みへの関与を検討した。その結果、IB4陽性神経は機械性痛覚過敏に、TRPV1陽性神経は熱性痛覚過敏に関与することが明らかとなった。
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