研究課題/領域番号 |
26670694
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研究機関 | 川崎医科大学 |
研究代表者 |
中塚 秀輝 川崎医科大学, 医学部, 教授 (70263580)
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研究分担者 |
前島 亨一郎 川崎医科大学, 医学部, 講師 (20549852)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 骨転移癌性疼痛モデル / 後根神経節 / BDNF / TrKB / 遺伝子治療 |
研究実績の概要 |
脳由来神経栄養因子(BDNF)は後根神経節(DRG)で合成される痛み伝達のモデュレーターであり、その受容体(TrkB)には細胞内リン酸化ドメインを持つTrkB1と細胞内ドメインの無いTrkB2の2種類が存在する。TrkB2はBDNFを捕捉する能力を有しているがシグナル伝達ができない構造を持っている(Mol Cell Biol 11:143,1991)。 TrkB2の発現ベクターを脊髄くも膜下腔に投与することによって末梢神経から脊髄後角に輸送されるBDNFを捕捉することができれば強い鎮痛効果が期待できる。 1)ラット乳がん細胞(MRMT-1)をラット脛骨骨髄に移植し骨転移癌モデルを作成した。von Freyテストによる疼痛行動はがん細胞移植後1週目から認められた。疼痛観察と並行して、L3(脛骨の支配領域)およびL4、L5のDRGでBDNFの発現量を経時的に定量PCR法で測定した。BDNF量はL4、L5DRGではほとんど変化が見られなかったがL3DRGでは1週目でやや増加し始め、2週目で有意に増加していた。X線CT画像では1週から2週にかけてMRMT-1細胞を移植した脛骨近位端で骨破壊が認められた。 2) TrkB2遺伝子をさらに加工して、膜貫通ドメインのあるpCMVscript-TrkB2(+TM)と、膜貫通ドメインのないpCMVscript-TrkB2(-TM)の2種の発現ベクターを作製した。がん細胞を骨髄に移植1週間後にラット脊髄くも膜下腔にカテーテルを挿入し、この発現ベクターを注入し、疼痛行動をテストした。「+TM」、「-TM」のベクターはいずれも投与翌日から疼痛抑制効果が認められた。全体を通じて「-TM」(膜貫通ドメインのないベクター)の方がより長期にわたり疼痛抑制効果が持続した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1) 発現ベクターの作成---発現ベクターの構成は、pCMVscriptを用いCMV promoterの後にTrkB2(-TMまたは +TM)を結合し、さらに以後の解析を容易にするためEGFP-FLAG-Stagを付加した。 脊髄組織でのベクターの発現は、定量PCR用プライマーを作成し測定した。トランスフェクション試薬はGenomONE(石原産業)を用いた。 2) 当初の目的であるTrkB2による鎮痛効果は確認できた。
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今後の研究の推進方策 |
1) 発現ベクターによる鎮痛効果は確認出来たので、ベクターの用量依存性を調べ、最大の鎮痛効果が得られる量と持続時間を求める。 2) 脊髄に投与された発現ベクターによって産生されたTrkB2タンパクをWestern Blot法で測定する。 3) ベクターで合成されたGFPを指標にして脊髄組織上でTrkB2の作用場所を確認する。 4) 発現ベクターのかわりにTrkB2の細胞外ドメイン(BDNF結合部位)に対応するタンパクを用いて鎮痛効果を調べる。
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次年度使用額が生じた理由 |
発現ベクター投与によって髄液中で増加したTrkB2タンパクを測定するために、血液混入の無い分析に十分な量の髄液を得ることが必要であり、年度内分析にまで至らなかった。髄液採取に難渋したため当初予定していたWestern Blot法によるタンパク分析が次年度になった。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度使用額は、アクリルアミドゲル電気泳動装置、ブロッティング装置、抗体などの購入に使用する。
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