本研究では、外尿道括約筋細胞とその幹細胞の転写制御ネットワークを詳細に検討し、外尿道括約筋細胞とその幹細胞に特異的な転写因子を見出し、最終的には線維芽細胞に導入し、ダイレクト・リプログラミングによる外尿道括約筋細胞とその幹細胞の作製による新たな尿失禁療法の開発を目指している。 平成27年度は、平成26年度に引き続き、ダイレクト・リモデリングによる外尿道括約筋衛星細胞の作製に向けた基盤となる研究を行った。骨格筋衛星細胞の転写因子としては、Pax (Paired Box) familyに属するPax-7が重要であることが知られている。通常、幹細胞はその特異的な細胞表面マーカーを標的とするflow cytometryを用いて収集されることが多いが、Pax-7は細胞表面に局在していないため、外尿道括約筋衛星細胞の高率な回収が困難であり、これまで研究邁進の妨げとなってきた。われわれは平成26年度に、高率な外尿道括約筋衛星細胞の回収を目指し、IL-6(Interleukin-6)によるPax-7陽性の外尿道括約筋衛星細胞の増殖実験を行ったが、その増加傾向は有意ではなかった。 そこで、平成27年度は、幹細胞のストレス耐性に注目し、最近報告されている長時間トリプシン添付培養(LTT:long-term trypsin incubation)を行った。長寿化したヒト外尿道括約筋衛星細胞(US2KD)を長時間トリプシン添付培養し、1時間・6時間処理後に、抗Pax-7抗体を用いて、その陽性細胞数をカウントした。その結果、Pax-7陽性細胞数は経時的に有意に増加した。
|