研究課題/領域番号 |
26670705
|
研究機関 | 名古屋市立大学 |
研究代表者 |
橋谷 光 名古屋市立大学, 医学(系)研究科(研究院), 教授 (10315905)
|
研究分担者 |
西川 信之 名古屋市立大学, 医学(系)研究科(研究院), 研究員 (30722748)
三井 烈 名古屋市立大学, 医学(系)研究科(研究院), 助教 (90434092)
|
研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
|
キーワード | 低活動膀胱 / 副甲状腺ホルモン関連蛋白 / カルシウム活性化カリウムチャネル / PDGFRα陽性間質細胞 / TRPV4チャネル |
研究実績の概要 |
血小板由来成長因子(PDGFR)α遺伝子の制御下にGFP蛍光蛋白を発現するマウスを用いた小コンダクタンスCa2+活性化K+(SK3)チャネル蛍光免疫染色の結果、排尿筋層PDGFRα(+)細胞の多くはSK3を発現していたが粘膜下層PDGFRα(+)細胞はSK3を発現していなかった。3ヶ月齢と13ヶ月齢の比較ではPDGFRαおよびSK3(+)細胞の分布や密度に変化を認めなかった。 モルモット膀胱の粘膜筋板は粘膜下血管と並走して密な網目状構造を形成し,血管の少ない部位では粘膜筋板の分布も粗であることから、膀胱充満時に血管が長軸方向に伸展されて血流抵抗が増加することを防ぐ機能を有することが示唆された。カプサイシンによる感覚神経刺激により、排尿筋では自発収縮増強を,一方粘膜筋板では自発収縮抑制を生じた。粘膜筋板におけるカプサイシン誘発収縮抑制はCGRP受容体阻害薬により拮抗され、また外因性CGRPによる自発収縮抑制もCGRP受容体阻害薬により拮抗された。 伸展により活性化されるCa2+透過性チャネルであるTRPV4の活性化薬はモルモット膀胱排尿筋および粘膜筋板において持続的な収縮を生じるとともに自発収縮を消失させた。自発収縮は大コンダクタンスCa2+活性化(BK)K+チャネル阻害薬により回復したがSKチャネル阻害薬では回復せず、TRPV4チャネルを介したCa2+流入は排尿筋のBKチャネルを活性化して自発収縮を抑制することが示唆された。TRPV4の活性化薬は自発細胞内Ca2+濃度上昇を消失させた後に持続的なCa2+濃度上昇を生じ、また自発活動電位を消失させた後に過分極を引き起こした。BKチャネル阻害薬により過分極がキャンセルされ自発活動電位が回復し、また自発Ca2+上昇も回復したことからTRPV4ーBKチャネルの機能的連関が支持された。この機構は蓄尿に伴う膀胱伸展時に、自己分泌により排尿筋を弛緩させる副甲状腺ホルモン関連蛋白とともに蓄尿機能の維持に関与していると考えられた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
消化管においてPDGFRα(+)細胞はSK3チャネルを発現し、自発およびプリン作動性神経刺激によるカルシウム濃度上昇に伴う過分極信号を伝播させることにより、平滑筋収縮抑制機構として機能している。膀胱にもPDGFRα(+)SK3(+)細胞が存在し、排尿筋収縮抑制に関わることが示唆されているが、13ヶ月齢の時点ではその分布や密度に変化を認めず、この細胞が加齢に伴う排尿筋収縮性の変化に関わる可能性を示唆する結果は得られなかった。 当初の研究目標には設定していなっかたが、排尿筋に発現するBKチャネルが伸展活性化カルシウム流入チャネルであるTRPV4と機能的にリンクしていることを初めて証明し、蓄尿相における排尿筋の収縮抑制はPTHFrP自己分泌とも相俟って排尿筋自体により行われる可能性が高いと考えられた。一方でTRPV4チャネルの活性化は持続的な排尿筋収縮を引き起こすため、この系の抑制/活性化が蓄尿機能にどのような影響を及ぼすかは引き続き検討する必要がある。 感覚神経の活性化は排尿筋に対しては収縮性亢進,粘膜筋板に対しては収縮性抑制をもたらすため、この系の活性化は蓄尿機能を抑制するとともに膀胱粘膜血流を阻害する可能性があり、膀胱機能障害の悪循環を生じる起点であることが示唆された。
|
今後の研究の推進方策 |
引き続き24ヶ月齢までPDGFRα(+)SK3(+)細胞の形態学的変化を観察する。また新たに発見されたTRPV4-BKチャネル機能連関が粘膜筋板においても機能しているか調べる。 昨年度報告したPTHrPの排尿筋と粘膜筋板での作用濃度の違いに加えて、感覚神経刺激に対する排尿筋と粘膜筋板の応答の違い、粘膜筋板と血管の解剖学的関係を含めた内容で研究成果を学術論文として世界に発信する。
|
次年度使用額が生じた理由 |
副甲状腺ホルモン関連蛋白(PTHrP)に関する研究は順調に進んだが,排尿筋とは異なる膀胱の収縮要素である粘膜筋板におけるPTHrPの発現と機能についても検討した。また当初研究計画に予定していなかったTRPV4-BKチャネルの連関を新たに発見し,その検討に相当の時間を費やした。 血小板由来成長因子α(PDGFRα)に関する研究のエフォートが低下したことに加えてPDGFRα-GFPマウスの出生率の低下,育児放棄および成育中の死亡なのどのため月齢の高いマウスの数が予定通り確保できなかった。
|
次年度使用額の使用計画 |
24ヶ月齢以上のマウスでPDGFRα-SK3陽性細胞の形態学的変化を調べ、TRPV4-BKチャネルの機能連関の粘膜筋板における働きを検討する。またこれまでの成果を学会発表および学術論文として情報発信する。
|