研究課題/領域番号 |
26670707
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研究機関 | 近畿大学 |
研究代表者 |
植村 天受 近畿大学, 医学部, 教授 (90213397)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | オートファジー / 前立腺癌 / マウスモデル / ノックアウトマウス / PTEN / Cre-LoxPシステム / 去勢抵抗性がん / Atg-7 |
研究実績の概要 |
細胞内浄化や栄養素供給作用で知られるAutophagyが起きるのは、一般に細胞が栄養飢餓状態に陥った時であるが、これは生存を維持するために生体に必須なタンパクなどのリサイクルを行うための自食現象である。Autophagyは細胞の生存維持に貢献している一方で、Autophagy細胞死も存在し、ヒトの神経疾患や発癌との関連が明らかになっている(Nature 402:672,1999)。前立腺癌ではAutophagy関連分子Atg6(Beclin 1)の発現量が低下しており、ATGノックアウトマウスでは発癌率が異常に高いことが報告されている(J.Clin.Invest 112:1809, 2003)。これはおそらく、Autophagy細胞死の破綻が発癌に関係しているのではないかと推察される。近年のAutophagyと癌細胞に関する研究は飛躍的に進展しているが、Autophagyの癌細胞における作用は極めて複雑で、時には癌の細胞死に促進的に働くが、時には全く逆の働きをする場合もあり、十分に解明されているわけではない。 われわれは、syngeneicな自然発生前立腺癌の動物モデル確立に着手し、前立腺癌の発癌過程で重要な役割を果たすPTEN遺伝子に着目し、Cre-LoxPのシステムによるconditional gene targeting法を用いて、PTEN flox/PSA-Creの系を開発した。PSA-Cre PTEN homo欠失マウスではPINを経て15週齢で100%前立腺癌が発生し、増殖することがわかっている。 本研究では、Cre-LoxPのシステムを用い、Autophagy必須遺伝子ATGを前立腺組織でのみノックアウトさせ、PSA-Cre PTEN/Atg-7ダブルKOマウスを作製し、発癌・進行過程におけるAutophagyの作用について検討する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
まず、PTEN conditional gene targeting (PTEN flox/PSA-Cre) と同じ手法を用い、PTEN+/+/Atg7f/fマウスとPSA-Cre+マウスを交配することにより、PSA-Cre+/Atg7f/fマウスを作製した。♂PSA-Cre+/PTEN homo deletionマウスと交配させ、PSA-Cre+/PTENf/+/Atg7f/+ (PTEN、ATGともにヘテロ欠失型)を確立し、ヘテロ型同士の交配により、PSA-Cre+/PTENf/f/Atg7f/+(PTEN homo ATG7 hetero deletion)、PSA-Cre+/PTENf/+/Atg7f/f(PTEN hetero ATG7 homo deletion)、PSA-Cre+/PTENf/f/Atg7f/f(PTEN,ATG7 homo deletion)の3表現型Colonyを作製した。次に各シグナル分子の発現をチェックすることで、PTEN/Atg-7 DKOマウスモデル(homo deletion)を確立したことを確認し得た。当初、PTEN/Atg-7 DKO homo deletionマウス確立には7-8年は要すると思っていたが、予想以上にスピーディーに交配が進み、5年以内に確立できたことは予想以上にスピーディで動物を扱うテクニックの特異的向上によるものと思われる。
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今後の研究の推進方策 |
我々はPSA-Cre PTEN homo欠失マウスにおいてAkt/p-Akt, 細胞分裂, アポトーシス, Autophagyのindicatorであるp62について検討した。 その結果、各分子の発現はWild-typeとPTEN不全マウスの間で異なるだけでなく、各time pointにおいて経時的な変化を示した。p62の発現低下はAutophagyの促進を意味し、Autophagyの促進がアポトーシス抑制と相関することが分かった。また、CRPCマウスモデルにおいてはp62, LC3A I/IIの低下が認められ、Autophagyが増進していることを突き止めた。今後はPSA-Cre Atg7 homo KOマウスおよびPTEN/Atg7 DKOマウスにおいても全く同様の発現解析を行い、AutophagyのPI3K-Akt pathwayに対する作用について検証する予定である。また、培養細胞の確立も同時進行したい。
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次年度使用額が生じた理由 |
実際には43万7350円を繰り越した。昨年度はDKO homoマウスモデルの確立に全力を上げていたため、実際にAtg-7/PTEN DKOマウスを用いたCRPCの各種発現解析や、生存期間などの観察研究を施行していない。免疫組織化学研究や治療実験などが施行されず、抗体購入や組織作製費が少なかったため、今年度に持ち越しとなった。
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次年度使用額の使用計画 |
昨年度繰越額と今年度の直接経費120万円を加えると、163万7250円が今年度の実質経費となる予定である。使用計画としては、DKOマウスの各Time pointにおける発現解析と生存期間を検証する研究。加えて、Atg-7アンチセンスオリゴヌクレオチドを用いた治療実験を行う予定で、60-70匹分の組織ブロック作製とそれぞれの免疫組織染色、凍結標本を用いたRT-PCR、タンパク発現量の定量など、昨年度の倍以上の検体数の処理となり、抗体・資料製作費などに使用する予定である。
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