研究課題/領域番号 |
26670715
|
研究機関 | 東京医科歯科大学 |
研究代表者 |
幸田 尚 東京医科歯科大学, 難治疾患研究所, 准教授 (60211893)
|
研究分担者 |
久保田 俊郎 東京医科歯科大学, 医歯(薬)学総合研究科, 教授 (50126223)
原田 竜也 東京医科歯科大学, 医学部附属病院, 講師 (80376748)
|
研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2016-03-31
|
キーワード | 精子 / エピゲノム / ゲノム |
研究実績の概要 |
生殖補助医療において、特に顕微授精(ICSI)の場合は精子を人為的に選択するため、良好な精子を判別する手法が必要であると考えられてきた。精子の運動性や形態といった外見的な指標が用いられてきた。近年では強拡大顕微鏡下での観察により、大きな空胞を持たない精子を選択してICSIを行うIMSIも提案され、実際に治療でも用いられている。しかしながら、このような指標と精子の染色体異常やDNA損傷の程度との関連は必ずしも明確ではない。一方、受精率や運動性の低いいわゆる「質の低い」精子では、ゲノムのメチル化の程度が高いという報告がある。また、年齢の上昇とともに精子のゲノムのメチル化およびヒドロキシメチル化の程度が高くなるという報告もある。精子ゲノムのエピジェネティックな修飾が年齢をはじめとした様々な要因で変化しうるとすれば、次世代に伝わるエピジェネティックな情報が変化する可能性が考えられる。そこで、本研究ではこれら精子のgenetic、epigeneticな情報の質の評価を個々の精子のレベルで統合的に検討することで、精子が次世代に伝える遺伝情報の総体を明らかにするとともに、生殖補助医療の技術向上のための基礎的知見を得ることを目的としている。 初年度である本年度は、モデル系としてマウスの精子ゲノムを用いてメチルシトシン、ヒドロキシメチルシトシンの解析を行い、精子ゲノム中でヒドロキシメチルシトシンが集積している部位の検索を試みた。そのため、我々が新たに開発した1塩基解像度でヒドロキシメチルシトシンとメチルシトシンを同時に解析する新技術を用いて精子ゲノムの解析を試みるとともに、微量サンプルでの解析を可能とするため、実験手法の改良を行っている。 また、精子ゲノムでのDNA切断点解析のためにγH2AXに対する抗体を用いたChIP-seqを行うために、少数細胞からのChIP-seqの条件検討を行った。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
精子ゲノムのヒドロキシメチルシトシンの解析、ゲノムの切断の解析を行うためのChIPなどの技術的な検討を行っているが、最終的には個々の精子での解析を行うため、単一細胞での解析を目指している。メチルシトシン、ヒドロキシメチルシトシンの解析には、我々が独自に開発した新しい技術を用いて解析を行うことを計画しており、既に多数の精子からゲノムDNAを取得しての解析を行っている。現状では数10 ngのゲノムDNAがあれば95%以上という高い精度での解析に成功している。また、次世代シークエンサーを用いたゲノムワイドでの解析についても技術的に可能であることを確認できている。 しかしながら、現在のところ単一遺伝子座での解析においても十分な精度での解析は1000細胞程度の細胞が必要と見積もられるため、実際にヒトの精子を用いた解析を進めるためにはさらなる技術改良が必要である。そのためには現在の10倍程度の効率の向上が必要であると考えており、初年度のうちにこれを達成することができなかった。ChIP-seqに関してもmicro-ChIPと言われる既存の手法の検討を行っているが、解析に必要な細胞数は同様に1000細胞程度にとどまっており、このため研究の進捗がやや遅れている。
|
今後の研究の推進方策 |
前述のように、精子ゲノムのヒドロキシメチルシトシンの解析およびゲノムの切断の解析を行うためのChIP-seqの解析のために現在より1/10程度少ない材料からの解析を可能とするよう、条件検討を進める必要がある。 ヒドロキシメチルシトシン解析の手法についてはさらなる微量化を行うための手法を考案しており、その実証を進めている。また、どちらの解析にあたっても、サンプルをPCRによって増幅し、次世代シークエンサーを用いて解析を行う。このため、解析のための出発材料を十分少なくすることができなかったとしても、得られた解析結果が実際何個の細胞に由来するものであるのか(何分子のDNAから増幅されたDNAを解析した結果であるのか)を正確に見積もることが重要である。そこで、現在ランダムなシークエンスタグを用いて解析の材料のDNAを標識し、これを用いて次世代シークエンサー用のライブラリを作成することで、解析結果が何分子のDNAから得られたものであるのかを明らかにしつつ、ゲノムのgenetic、epigeneticな評価を行うことで、得られるデータの信頼性を評価することを計画している。また、次世代シークエンサーを用いた解析を行うためサンプルをPCRによって増幅する際に、分子間での増幅の偏りが生じないよう、droplet PCRを用いることで均一な増幅い、一段の精度向上を図っている。 これらを組み合わせることで、十分な精度でのゲノムの評価を行うことが可能であるとの見通しが立った時点で、精子の形態学的・生化学的な評価とゲノムのgenetic、epigeneticな評価をヒト精子を用いて行い、新たな評価システムの確立を目指している。
|
次年度使用額が生じた理由 |
比較的少数の細胞からのゲノム、エピゲノム解析の技術開発が遅れているため、ヒトの精子由来サンプルの解析に関わる支出が少なくなった。
|
次年度使用額の使用計画 |
少数の細胞からのゲノム、エピゲノム解析の技術開発を2年度目の前半に完了し、初年度にヒトの精子由来サンプルの解析に用いることを予定して繰越になった部分も含め、2年度目に完了するよう研究を推進する。
|