卵巣癌の脳転移症例でBRCA異常の頻度が高いという疫学的事実から「脳転移の何らかのstepにBRCA遺伝子異常が関与している」と考え本研究を計画し、BRCA1/2変異家系および卵巣癌症例での予後調査と、転移関連遺伝子におけるゲノム解析を行った。当科で集積した遺伝性乳癌卵巣癌12家系で行った再家系調査では、1例の卵巣癌発症を確認したが、新たな脳転移症例を認めなかった。当科で治療した過去8年120例の卵巣癌症例を対象とした予後調査では、脳転移を5例確認し、予後が比較的長期(6か月以上)の症例が多いことが分かった。がん転移の多段階ステップの中で上皮系細胞が転移をきたす鍵となる上皮間葉転換 (Epithelial Mesenchymal Transition: EMT)に着目し、EMT誘導シグナル経路であるTGF-β経路の主要遺伝子であるTGFBR2とCTNNB1遺伝子において、BRCA変異陽性卵巣癌が上記遺伝子に特異的変化を有しているかどうかについて、BRCA変異陽性90人(BRCA陽性群)、変異陰性110人(BRCA陰性群)、健常女性170人(健常群)、計370人を対象にダイレクトシーケンスとSNP解析を行った。その結果、CTNNB1のexon3に位置するSNPでallele Tの頻度が有意にBRCA陽性群で高いことが確認された(p=0.027)。以上より、CTNNB1がBRCA変異陽性卵巣癌の脳転移に関与している可能性が示唆され、現在脳転移症例での解析を進めている。
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