研究課題/領域番号 |
26670717
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研究機関 | 富山大学 |
研究代表者 |
齋藤 滋 富山大学, 大学院医学薬学研究部(医学), 教授 (30175351)
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研究分担者 |
山田 拓司 東京工業大学, 生命理工学研究科, 講師 (10437262)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 産科学 / 生殖医学 |
研究実績の概要 |
本研究の目的はヒト腸内マルチオミクスデータを用いた早産の予後と関連する細菌叢を知ること、ならびにプロバイオティクスを切迫早産例に使用した前後の細菌叢の変化と早産予後を検討することである。 1)切迫早産21例中、早産となった10例(早産例)と、治療により正期産となった11例(治療奏効群)と、正常妊娠20例で腸内細菌叢の変化を比較検討した。その結果、Clostridium clusterXVIII、Clostridium clusterIV、Clostridium subclusterXIVaの菌量が正常群に比して治療群では低下しており、早産群ではさらに低下していることを認めた。またBacteroidesでも同様の結果を得た。 2)切迫早産20例に対して整腸剤ビオスリー(商品名)を3g/日投与し、腸内細菌叢が投与前後で変化するか、また妊娠延長が認められるかを検討した。その結果、Bacteroidesが増加した例では早産予後は良かったが、改善しなった例では10例中8例が早産に至った。また末梢血中の制御性T細胞(Treg)を機能的Treg、ナイーブTregに大別し、フローサイトメトリーを用いて検討中で、腸内細菌とくにClostridum属との関連性を検討している。すでに早産例、妊娠高血圧腎症では機能的Treg細胞が低下することを認めている。 3)エコチル富山でのデータベースを用いて6,000人の食生活と早産や妊娠高血圧腎症との関連性につき、検討を加えたところである。ヨーグルト摂取量と早産率には差を認めなかったが、味噌汁の摂取回数と早産率には有意な負の相関を認めた。 4)妊娠高血圧腎症について10例の糞便、末梢血の採取を完了した。現在、メタゲノム解析を行っている。 5)子宮内膜症については20症例の子宮内膜症のメタゲノム解析中であり、5月中にすべてのデータが出る。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
(1)切迫早産20例で整腸剤(ビオスリー(商品名))前後での腸内細菌の変化を早産の予後につき検討することが出来た。腸内細菌叢が改善した群が10例、改善しなかった例が10例であり、改善群での早産率は2/10(20%)であったのに対し、非改善例の早産率は8/10(80%)と高率であった。すなわち腸内細菌叢の変化により早産予後が変わるということを意味しており、極めて意義深い結果となった。現在、あと20例を集積中で、同様の結果が出れば論文化したいと考えている。 (2)子宮内膜症で手術前に20例から糞便を採取した。また正常例からも20例の糞便採取できたので、現在メタゲノム解析中である。 (3)切迫早産群20例と妊娠高血圧腎症8例の末梢血Treg細胞をflow cytometryで検討し、Treg中でもとくにfunctional Tregの減少が著しいことを見出した。 (4)エコチルの調査で、食物摂取と早産との関連性を富山県の6,000人で調査したことろ、早産率は味噌汁摂取0回の時、最も高率で、味噌汁摂取1回、2回、3回と増えるに従い、早産率は減少した。一方、ヨーグルトやチーズの摂取量や牛乳摂取量とは有意な差を認めなかった。このため全国調査データを用いて再検討を行なっている。
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今後の研究の推進方策 |
(1)切迫早産例の症例数を増加させるため、鹿児島市立病院、昭和大学と共同研究を開始した。これにより、本年度は症例数が20症例増加した。 (2)切迫早産20例につき整腸剤内服前後での糞便採取と末梢血採取が終了したので、メタゲノム解析を5月に行ない、細菌叢の変化と早産率に相関を認めた。そこで、さらに20例の症例を集積中である。特に細菌叢の中でのClostridium属ならびにBacteroidesの菌数と早産予後の関連性につき検討する。 (3)妊娠高血圧腎症の検体採取は8例に達したため、本年度にメタゲノム解析を行なった。さらに10例の追加を本年度に行なう予定である。 (4)子宮内膜症は低用量ピル投与前後での腸内細菌叢の比較が10例に達したので解析を開始した。次年度は整腸剤を内服し、その前後での細菌叢を比較し、臨床症状との関連性を検討する予定である。 (5)エコチル富山でのデータはすでに入手し、現在6,000人あまりの症例より食事項目を抽出しデータ再入力して、乳酸菌製剤の摂取量と切迫早産、早産との関連性を明らかにした。次年度は全国のエコチルデータ10万人分で検討を行なう。これらの症例で同様の所見がないかを検討する予定である。すでにデータ利用の許可は得ている。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度に症例の蓄積、実験の継続のために必要だった。
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次年度使用額の使用計画 |
研究費の使用内訳は、検査、試薬の購入に必要な経費である。
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