研究課題/領域番号 |
26670728
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
長島 隆 慶應義塾大学, 医学部, 共同研究員 (40338116)
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研究分担者 |
丸山 哲夫 慶應義塾大学, 医学部, 准教授 (10209702)
太田 邦明 慶應義塾大学, 医学部, 共同研究員 (90424142)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 常位胎盤早期剥離 / 核磁気共鳴法 / BMPR2 |
研究実績の概要 |
本研究は、研究代表者の作成した常位胎盤早期剥離モデルマウスである子宮特異的Bmpr2 cKOマウスと、そのコントロールマウス(Bmpr2 Ctrl)を用いて、妊娠子宮における BMPR2のリガンドと下流のシグナル伝達物質を同定することにより、常位胎盤早期剥離の病態解明と治療候補因子となり得る標的因子を明らかにすることを目的としている。 今年度の第1目標は、BMPR2のリガンドを含む妊娠マウスの子宮内膜細胞から、細胞内蛋白成分を抽出することであった。その結果、研究代表者は、自身の作成したBmpr2 cKOマウスとBmpr2 Ctrlマウスの妊娠子宮から子宮内膜細胞を単離し、初代培養細胞として一定期間、生体外で培養し細胞増殖させたのち、細胞内蛋白質を抽出することに成功した。 一方、妊娠マウス子宮の子宮内膜細胞から得られる細胞内蛋白質は、膨大な種類の蛋白成分を含むため、BMPR2のリガンドとは異なり、BMPR2へ非特異的に結合する多くの蛋白成分も存在すると考えられる。よって、得られる細胞内蛋白質のうち、どの蛋白分画にBMPR2のリガンドが含まれるのかを同定することで、リガンドの候補蛋白質を絞り込んで行く必要がある。この蛋白分画を同定するためには、まず、Gfpを付加したBmpr2遺伝子を不死化培養細胞へ導入することで、BMPR2を強発現する培養細胞を作成する。Gfpを標識とすることで、セルソーターにて、遺伝子導入された培養細胞のみを単離・培養する。その後、子宮内膜細胞から抽出した各蛋白分画を含む細胞培養液で遺伝子導入された細胞を培養し、細胞内におけるBMPR2の下流シグナル伝達物質の発現変化を確認することで、BMPR2のリガンドを含む蛋白分画を同定していく。現在、NIH3T3細胞を用いてBMPR2を強発現する不死化培養細胞を作成中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の目的である、単離された子宮内膜細胞の培養と、細胞内蛋白質の回収は達成された。しかし、BMPR2を強発現する不死化培養細胞を樹立している途中であるため、回収された細胞内蛋白質から、クロマトグラフィーとゲル濾過を用いてBMPR2のリガンド候補蛋白を絞り込む作業を開始するまでには至っていない。その理由は、Bmpr2の分子量が大きいため、培養細胞への遺伝子導入効率が低く、当初予想された以上に遺伝子導入に時間を要したからである。現在は、遺伝子導入された培養細胞の機能を確認している段階である。
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今後の研究の推進方策 |
本年度では、樹立されたBMPR2を強発現する不死化培養細胞の機能を最終確認したのち、リガンド候補蛋白を絞り込んでいく予定である。そのためには、マウス妊娠子宮の子宮内膜細胞から抽出された細胞内蛋白質をいくかの蛋白分画に分け、BMPR2の下流シグナル伝達物質の発現を変化させる細胞分画を同定する必要がある。さらに、発現変化が明確となる、培養液における添加蛋白分画の至適蛋白濃度も決定する必要がある。BMPR2に関しては、過去の研究責任者の研究により、妊娠マウス子宮の脱落膜化組織において、BMPR2の発現が低下すると細胞周期調節因子の発現も低下することが分かっている。よって、遺伝子導入によりBMPR2を強発現する不死化培養細胞を、子宮内膜細胞から抽出されたそれぞれの蛋白分画を含む培養液で培養。さらに、添加した蛋白分画の濃度に依存してCCND3の発現が変化する培養細胞を同定することで、BMPR2のリガンド候補を含む蛋白分画を選別することができる。蛋白分画の選別後は、クロマトグラフィーとゲル濾過を用いてBMPR2のリガンド候補蛋白を単離したのち、核磁気共鳴法(NMR法)にて候補蛋白の構造分析と構造決定を行う。その結果、予測された構造からさらにBMPR2のリガンド候補を絞り込んでいく。最終的には、SELDI-TOF-MSやBLOTCHIP-MSなどの質量分析法、ならびにtwo-hybrid法などのprotein-protein interaction(PPI)法による蛋白質間相互作用の確認により、BMPR2の標的因子を同定していく。
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次年度使用額が生じた理由 |
前年度は、子宮内膜細胞の単離と培養、ならびに細胞内蛋白質の回収を主目的としていたが、予定より順調に進み少ないコストで目的を達成した。しかし、次の予定であるBMPR2を強発現する不死化培養細胞の樹立では、予想に反して遺伝子導入に時間を要し、研究計画が遅れたため、必要とされる助成金を使用することなく本年度を迎えてしまった。
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次年度使用額の使用計画 |
本年度は不死化細胞の樹立とその確認を早急に行い、BMPR2のリガンド候補蛋白を含む子宮内膜細胞由来の蛋白分画の同定、ならびにリガンド候補蛋白の絞り込みを行うことで、BMPR2の標的因子を同定していく予定である。そのため、蛋白の精製を行う上で使用するクロマトグラフィーやゲル濾過などの必要物品に加え、本研究における蛋白同定で使用する質量分析器の外部発注など、前年度以上の費用が必要とされると考えられた。よって、前年度から繰り越した助成金に、今年度の分として請求した助成金を併せることで、本研究を継続し完遂することができると考えられた。
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